労働者災害補償保険法

労働者が仕事中や通勤中に起きたことが原因で、けがや病気になったときに保護をする保険です。具体的には、けがや病気の治療代を支給したり、休業中の生活費の支給、障害が残ったときの保護、死亡した場合の遺族に対する生活費の支給などを行います。もともと、労働基準法に規定されている事業主の災害補償義務を肩代わりする保険なので、保険料は全額事業主が負担します。

 

一、業務災害に関する保険給付

二、通勤災害に関する保険給付

三、二次健康診断等給付と特別加入について

 

 

全体について(保険について)

 

(1)保険とは

保険とは、助け合いの制度です。制度に加入している人(ここでは加入者としておきます)が、普段少しずつ保険料等を払っておいて、何かの事故(保険に関する事故なので保険事故といいます)にあった加入者がいたら、その加入者あるいは遺族に対して必要な給付(保険の給付なので、一般に保険給付といいます)を行います。

※「保険事故」とは・・・事故というと、けがをすることなどをイメージすると思いますが、ここでいう「保険事故」はそれぞれの保険制度で設定されている事由をいいます。例えば、雇用保険では「失業」という保険事故に対して給付を行います。年金制度では「老齢」という保険事故に対して給付を行います。生命保険は、死亡という保険事故に対しての保険制度です。

(2)保険の種類

これらの保険は大きく分けて、政府等が行う公的な保険と、個人的な個人保険に大別することができます。

[公的な保険の種類]

カテゴリー 名称 保険の概要
医療 労働者災害補償保険 会社員が業務中や通勤中のことが原因でけがや病気をした、障害が残ったあるいは死亡した場合などの保険
健康保険 会社員が業務災害以外でけがや病気をした、死亡したあるいは出産したときの保険
医療 国民健康保険 自営業者などが、けがや病気をした、死亡したあるいは出産したときのための保険
年金 国民年金 国民一般に関係する年金
厚生年金保険 会社員や公務員などに関係する年金
介護 介護保険 介護は必要になったときの保険
雇用 雇用保険 失業等の場合の保険

 

①労働者災害補償保険法について

(1)労働者災害補償保険法の概要

労働者災害補償保険は、業務上の事由又は通勤による労働者の負傷、疾病、障害、死亡等に対して保険給付を行うこととされています。労働者災害補償保険のは、政府が運営(管轄)しています。

(2)保険料について

元々、事業主の災害補償義務を肩代わりするための法律なので、保険料は全額事業主が負担しています。→ほかの保険制度では、労働者も一部負担します。

(3)被保険者について

いままで「加入していて、普段保険料を払っている→保険事故に該当したら保険給付してもらう」人のことを加入者と呼んできましたが、公的な保険制度では、一般に被保険者といいます。また保険制度の運営元を保険者といいます。

しかし、労働者災害補償保険法では、事業主が保険料を全額支払い保険事故が発生したら労働者が保険給付をもらうことなります。保険料を払う人ともらう人が違うので、被保険者という概念は存在しません。ほかの公的な保険制度(雇用・健康・刻人年金・厚生年金保険)では、保険料の一部を本人が負担しているので、それぞれの法律ごとに被保険者が存在します。

②労働者災害補償保険法の適用される範囲

「この法律においては、労働者を使用事業を適用事業とする」とされています。つまり、1人でも労働者を使用していたら適用事業になります。労働者災害補償保険法は、労働者に災害が起きたら補償する法律です。労働者がいるのであればほごしなければなりません。ついては、1人でもいたら適用するというのが原則の考え方になります。それに対して、個人経営の農林水産業で規模が小さいなどの一定の要件に該当するものについては、任意適用扱いとされています。またほかの労災相当の法律が適用される者(公務員)は適用除外となります。

 

 

保険給付の種類等

 

労働者災害補償保険法では、「労働者の負傷、疾病、障害、死亡等」に対して保険給付を行います。

①保険給付の種類

労働者災害補償保険法の保険給付は、大別すると3種類になる。

①業務災害に関する保険給付 ②通勤災害に関する保険給付 ③二次健康診断等給付

 

 

②業務災害と通勤災害の認定

例えば労働者が工場で機械を扱っている最中にけがをしたら、業務災害です。その場合には、労働者災害補償保険法が適用されます。一方、労働者が自宅で入浴している最中にけがをしたとしたら、業務外の災害です。これは健康保険が適用となります。

(1)業務災害の認定

業務災害とは「労働者が事業主の支配下にあることに伴う危険が現実化したもの」であるとされています。事業主の支配下にあること+業務に伴う危険が現実化したもの、という2つの要素をもっています。これらを

業務遂行性・・事業主の支配下にあるかどうか、ということ(事業場にいる、業務に従事しているなど)

業務起因性・・業務に起因しているかどうか、ということ

簡単に言うと、仕事に関係して、仕事が原因でけがや病気になったら業務災害ということになります。なおこの業務災害の認定に関しては、明文化された定義・条文はないので、業務上で積み重ねられた通達・事例等の判断基準を基にして判断していきます。

(2)通勤災害の認定

通勤災害については、業務災害とは異なり明文化された定義分がありその定義文にあてはまるかどうかによって通勤災害に該当するか判断されます。

条文(概要)

通勤とは、労働者が、就業に関し、次に掲げる移動を、合理的な経路及び方法により行うことをいい、業務の性質を有するものを除くものとする。

  • ①住所と就業の場所との間の往復
  • ②一定の就業の場所からほかの就業の場所への移動
  • ③①の往復に先行し、又は後続する住居間の移動

このうち①は一般的な通勤及びそれに準ずる通勤です。(自宅以外の場所:例えば、泊り込みで看病している場合の病院などが住居と認められるなどの例外がある)。

②は2つの仕事を掛け持ちしている場合の、1つ目の就業の場所から2つ目の就業の場所への移動をイメージしています。この場合、黒い矢印の部分は①の規定により通勤となります。

③は単身赴任先と帰省先の住居の間の移動をイメージしています。

以下の3種類の移動を通勤としています。これらの移動の間に災害が発生した場合で、一定の要件を満たした場合には通勤災害となります。

③給付基礎日額

給付基礎日額とは、簡単にいうと「お金の単位」労働者災害補償保険法の保険給付には、現金で支給するものが少なくありません。

(1)給付基礎日額の種類

  • 休業給付基礎日額・・休業補償給付、休業給付の給付時に用います。
  • 年金給付基礎日額・・年金給付の給付時に用います。
  • 一時金の給付基礎日額・・一時金の給付時に用います。

(2)給付基礎日額の全体像

給付は労働基準法のお金の単位である平均賃金を基にして作られています。ただし、労働基準法では保護されていなかった事項につき、特例的に、より保護することとしています。また労働者災害補償保険の保険給付は長期簡易わたることがあります。その場合に、価値を変えないように賃金の変動にあわせて給付額を変えるスライド制、年齢ごとに必要な給付額を補償する最低・最高限度額の規定があります。下記の順番で各規定を適用し、給付基礎日額を求めます。

給付基礎日額の求め方

  • 原則(平均賃金)→特例→スライド→最低・最高限度額
  •           ↓→スライド→最低・最高限度額