契約書について

 

シチュエーションと目的

・相手と交わした売買契約や業務委託契約などについて、正確に認識を共有します。

・いざという時に法的根拠として、契約の内容や変更事項を記録します。

 

マナー

 

ポイント

・法に照らして効力があるように、必要な要素は漏れなく盛り込む。法務担当署がなれれば、弁護士や行政書士など専門家などにも相談してもよいです。

・契約の内容、期間、支払い方法などは、わかりやすいように箇条書きでまとめます。

・各当事者が1通ずつ保管できるよう、同じ書類を人数分作成する。それぞれの押印も忘れないように注意する。

 

 

そもそも契約書とは

契約書とは、契約内容を明確にするための書類のことです。しかし、契約書は絶対に交わさなければならないものではないため、口約束や簡単なメールで仕事を始めてしまうケースも多く見られます。契約書を交わしておくことが重要だと分かっていても、フリーランスから話を切り出すのはクライアントに失礼ではないかと躊躇する人もいるでしょう。

しかし仕事内容や価格、支払い方法などはもちろん、途中で案件がキャンセルになったときはどうするか、どの程度まで修正対応する必要があるか、などを契約段階で決めておかなければ後々、

  • 報酬が支払われなかった。
  • 何度も修正を要求され、莫大な手間と時間がかかった。

などの問題が起こったり、また、しっかりと納品したにもかかわらず、

  • 納期までに納品されなかった。
  • 納品物が希望していたものとはまるで違っていた。

などの理由を後付され、報酬が支払われないというケースもあります。契約書はフリーランスにとっても、クライアントにとっても双方の利益を守るための大事な書類である、ということを改めて認識し、契約書を発行することでこのようなトラブルを避けていきましょう。

今まで契約書なしでも特にトラブルがなかったクライアントとは、すでに信頼関係が築かれ安心して仕事ができているかもしれません。契約内容をはっきりさせず、お互いの信頼だけで仕事するような風潮が日本にはある一方、欧米などではもっと契約について感覚がシビアです。今後、国内でもフリーランスの増加が予想されます。そのような中で、何でもクライアントに従う、という上下関係では都合よく使われてしまう恐れがあります。自分の利益を守り、双方が対等な立場で話を進める、というのはフリーランスの地位向上のためにこれからますます必要になってくることです。

契約書に関しては、クライアントが提示する場合もありますが、提示されない場合は、フリーランスが自ら作成しなければなりません。「作成が難しそう」「専門家への依頼が必要では?」と思われがちですが、テンプレートを使えば簡単に作成することができるので、契約の際に提示できるように作っておきましょう。

 

 

知っておきたい契約書の主なポイント

 

クライアントから最初に契約書を提示されたら「単なる書面上の手続き」と軽く思わず、しっかり内容を吟味してください。また自分で契約書を作り、相手に同意してもらうときも抑えておくべき注意事項があります。代表的なポイントを見てみましょう。

ポイントその1 業務範囲
細かい点は別途、作成される仕様書やレギュレーションを参照しますが、たとえばWebサイトの制作という案件なら制作完了までが業務なのか、ホームページの更新作業まで担うのか、といった点をはっきりさせておきましょう。業務の範囲を決めていなければ、あれもやってくれ、これもやってくれと後付で業務が増え、報酬は変わらないという事態に陥る可能性があります。

ポイントその2 価格や料金、報酬
最も重要な部分ですが、金額については「別途協議のうえ決定した金額」や「仕様書に定める通り」などと記し、具体的な金額については触れないこともあります。この場合は仕様書や協議内容をしっかりチェックしましょう。

また「(クライアントは)料金および消費税相当額を支払う」など、税金の取り扱いについても明記しましょう。その他、支払い方法(指定した銀行口座に振り込むなど)、振込手数料(どちらが負担するか)、支払い期限(納品してから1週間以内など)を書いておくのも忘れないようにしましょう。

ポイントその3 着手金
仕事を開始する前に、クライアントから報酬の一部を着手金として受け取ることもできます。このことでフリーランスは全額お金が受け取れない、という心配がなくなり、クライアントにとっても先払いしている分、フリーランスにしっかりした仕事を求めやすくなります。

着手金の金額は報酬の〇%かを任意で設定し、入金確認後すぐ業務を始めることなどを契約書に盛り込んでおきます。もしクライアントの都合で案件が途中キャンセルになったら「着手金は返金しない」とあらかじめ宣言しておくのも大事なポイントです。逆に、自分の都合により途中キャンセルするとき、すでに受け取っている着手金の取り扱いをどうするかについても定めておきましょう。

ポイントその4 納品や検収、修正対応
クライアントから示されたレギュレーションや発注書に沿う内容であれば、成果物を納品した段階で検収完了になることもあります。一方で、ほとんどの場合は「基準に達していない」、「クライアントが示した意図と違う」などの理由で修正対応を迫られることになります。しかし納品後、クライアントの都合で検収作業が後回しになってしまい、しばらく修正指示も検収完了の連絡も来ない、という事態もあります。それを避けるため「速やかに内容確認を行うこと」や「納品後7日以内に連絡がないときは承認されたとみなす」などを契約段階で約束しておくと良いでしょう。

また、納品後に何度も修正依頼がくると他の業務に支障が出てしまいます。そのため「無料での修正対応は2回まで、それ以降は別途料金が発生する」など注意事項を記載しておく方法もあります。この場合、納品物がレギュレーションや発注書の内容から大きく逸脱していないことが条件となりますが、修正回数を宣言しておくとクライアントも無意味な修正指示を出さなくなるはずです。

ポイントその5 瑕疵(かし)担保責任
瑕疵担保責任とは、納品後に制作者のミスで予期せぬ不具合が発生した場合、○日以内なら無料で修正対応に応じることを記した項目です。瑕疵担保の期間は、一般的に90日以内と設定されることが多くなっています。ただし初期的な欠陥や制作者側に原因がある不具合に限る、として、クライアント側ですでに何か手を入れてしまっている場合は該当しないということを明確するのも重要です。

ポイントその6 キャンセル料
万が一、クライアントの都合で案件が途中でキャンセルとなった場合を想定し、キャンセル料についての規定を定めておきましょう。多くの場合は「(クライアントの都合で)キャンセルする場合は、着手金を放棄すること」という内容で合意します。

ポイントその7 仕様書の変更、納品後の対応
案件を進める中で、仕様書とは違う内容に変更するよう求められることがあります。変更の程度にもよりますが、大幅な路線変更には別途料金を支払ってもらえるようにしたいものです。また、検収後にクライアントの希望で修正依頼があったときは追加費用で対応する旨も確認しておきましょう。

ポイントその8 著作権
検収後、対価が支払われた時点で、著作権はクライアントに移転する旨を定めた契約書がある一方、納品後も著作権は制作者側にあり続けることを明記した契約書もあります。特に、イラストや写真などは納品物を勝手に二次的利用されないよう求めたり、トリミングや拡大縮小などクライアントが自由に変更できる範囲を明確にしたり、クレジット表記を入れるか入れないかの判断をしたりなど、著作権に絡むさまざまな交渉があります。この部分を曖昧にしておくと後々トラブルになることが多いので特に注意しましょう。

実際には、著作権の中でも「著作財産権」(営利目的で使用するときに生じる権利)と呼ばれる部分については、クライアントに譲渡することが多いのが現状です。一方で制作者の権利を守るための条項については別途定めておき、勝手にアイデアやノウハウが流出したり、商標権登録など一方的な権利主張が起きたりしないようにしておきましょう。

ポイントその9 秘密保持
業務で知りえた内容については秘密情報として扱い、第三者に知らせたり他の業務に使用したりしてはいけないことを定めます。

ポイントその10 不可抗力
天災や不慮の事故、疾病などの不可抗力で業務が遅延したり、完了できなかったりしたときは責任を問わず、双方の話し合いによって今後の対応を決めること、などを決めておくと安心です。