洗練された表現へ高める(翻訳調の注意点)

 

第1章 洗練された表現へ高める

1、ギクシャク表現をスムーズに

 

原文 携帯電話で音楽を聴けば必然的に 充電池残量が減っていく。それはイコールその他の機能使ううえで影響を及ぼす。

改善例 携帯で音楽を聴けば当然 電池が減る。そして通話など携帯本来の機能使うにも支障を来す

→表現を分の内容や性質に合わせる

異なる分野の用語を使うとギクシャクする。

それはイコールは、何かを理屈っぽく説明する雰囲気です。「そして」で平明に受ければよい。その他の機能、使う上で影響を及ぼすなどは内容があいまいであるため内容をはっきり打ち出すようにしている。

 

 

2、稚拙な表現から脱却する

原文 その日が満月と知ったきっかけは、月が満ちて空が明るくなっていたことに気づいたわけでなくニュースで知ったのだった。

改善例 その日が満月と知ったのは、空を見たからでなく、ニュースによってだった。

→主語を受ける言葉がない。反復表現がある

きっかけを受け止める言葉がない。また満月と月が満ちて空が明るくなっていたことなどは同じようで連想できるため不要。

 

3,未消化表現をこなれたものに

原文 スポーツの実況はテレビ、ラジオ中継についてくるが、それによって会場、選手の様子などを知ることができる。

改善例 テレビやラジオのスポーツ番組の実況中継は、会場の雰囲気や選手の動き生々しく伝えてくれる。

→もう一歩、中身に踏み込んで考える

会場、選手の様子とはどんな様子か分かりません。もっと具体的な内容を出さないと未消化な感じを与えます。会場であればその雰囲気、選手であれば競技中の動きなどが、その中身です。いちばん言いたいことは何か立ち止まって考える。

 

 

4、だらだら表現にメリハリを

原文 職場の友人から、携帯電話にメールがあった。かなり深刻な内容で文章もとても長いものだった。そのメールで何より驚いたのは文章の長さである。こんなにも多い文字数を携帯電話のメールで受信できることにも驚いた。真夜中、私はすっかり眠りに入っていた。メール音で目が覚めて、何事かとも思った。

改善例 私がすっかり寝入った真夜中、職場の友人から携帯メールが届き、着信音で目が覚めた。何事かと思ったが、まず驚いたのは、その文章の長大さだった。内容もかなり深刻だ。

→重複表現のまとめ上げと脇筋の剃りこみ

長文は思いつくままにだらだらと書き連ねた感があります。そうした文章の特徴は、時間が前後したり、関連する内容があちこちに分散したり、余分な話が紛れ込んだりしていることです。余分な内容は刈り込みまとめることがメリハリを生みます。二つの動作を短くし一つの文にまとめるなどです。

 

 

5、翻訳調を日本語らしくする

原文 病気は、人間にとっておきうるし、、ほんとうにおこる「なにごとか」になる。その時、ひとつの抽象物としての、病気という気楽な考察は、もはやありえないのである。

改善例 どんな人も病気に掛かりうるし、具体的な「何か」として現れる。もはや、病気という抽象的な概念として気楽に考えているわけにはいかなくなる。

→原語を直訳しても、自然な日本語にはならない

翻訳調、とりわけ西欧調の影響の強い表現を、こなれた日本語表現にするのための留意点として・・・

①一読して違和感のある部分に注目する

②①の違和感の理由を考える。例文の「無生物主語」など外国語特有の表現があったら、日本語本来の表現はどうするかを考える。例えば、「無生物主語」の文に人間も登場するなら、人間を主語にすればよい。

③文体のほか、語法、語順なども外国語と日本語では異なる。

④代名詞「これ・それ・あれ・彼・彼女・彼ら・彼女ら」などが頻繁に出ると、翻訳調になりがちだ。

⑤部分だけでなく、文全体の日本語らしさにも目を向ける。その際、はたして私たちはこんな表現をするだろうか。との常識感覚に立ち戻って吟味する。

 

 

6,詰め込み表現をスッキリ

原文 社内は公共の場であることを忘れずに、お互いに気持ちよく一日を始める上での最低限ルールとは何かを、今一度、考えてみてはと考える

改善例 車内は公共の場である。お互いに気持ちよく一日を始めるための最低限のルールとは何か。そんなことを今一度、考えてみてはどうだろうか

→いっぺんに言おうとせず、分けて表現する

考えてみてはと考えるは大変まわりくどい。

→二重表現も歯切れを悪くする

「興味が無いわけではない」「嫌いと言うわけではない」といった表現を連発すれば二重否定やそれに準ずる表現も歯切れを悪くする。

 

 

7、虚飾を省いて引き締める

原文 フリーターという存在やその数が増加傾向の一途を辿っていることは、今や言わずと知れいている。珍しくなった フリーターと言われる若者たちにも、さまざまな事情があることも認識されている。

改善例 フリーターが増加の一途を辿っているが、この若者たちにもさまざまな事情がある。

→虚飾は虚勢心理の表れ

原文の飾りを徹底的に取り去ってみたら、残ったのは改善例にある平凡な事実となる。虚飾は書き手が自分を大きく見せたいという心理です。

 

 

8、大げさ表現を事実に見合うものに

原文 各地の自治体が水道水をペットボトル詰めして販売している。商品化した水道水とははたしてどんなものか。その正体を探るべく、専門家の話を聞いた。

改善例 各地の自治体が水道水をペットボトル詰めして販売している。商品化した水道水とはどんなものなのか。その概要をつかむため、専門家の話を聞いた。

→ムードで書き飛ばさず、事実に即して表現する

その正体を探るべき→おおげさである。その概要をつかむためにでよい。

 

 

9、思い込みの強さを消す

原文 我先に席取りや携帯電話のおしゃべり、年配者や妊婦を無視する寝たふりなど、電車に乗ると何かしらのマナーの悪さに不快になっているものだ

改善例 われ先に席取りや携帯電話のおしゃべり、年配者や妊婦を無視する寝たふりなど、電車に乗ると、私は何かしらのマナーの悪さに不快になる

→自分の体験・判断を安易に一般化しない

「ものだ」という表現は、ある事態や物事に対する判断を、書き手個人のものとしてではなく、それが「同然だ」「常識だ」「ふつうだ」という意味の一般論として示す表現です。

原文では、電車内のマナーの悪さに不快になるのをものだで当然視しています。しかし、それは筆者個人の体験や判断でしかありません。それを、世の中の人は皆そう感じているはずと決めつけています。

 

 

10、論理を整理し流れをよくする

原文 女性の喫煙者が増えている。女性の社会進出が進み、男性中心社会で溜まるストレスを発散させるためという。体によいことは何一つないし、たばこ増税もあった。それでも増えている

改善例 女性の喫煙者が増えている。体によいことは何一つしないし、たばこ増税もあった。それでも増えている。女性の社会進出が進み、男性中心社会で溜まるストレスを発散させるためという。

→順番を入れ替え、論理が通るようにすれば説得力も増す。

原文・改善例は同じ文ですが、並び方を変えています。原文に沿って、各文の役割を明らかにしましょう。

  • ①女性の喫煙者が増えている・・・話題(主題となる事実)の提示
  • ②女性の社会進出が進み、男性中心社会でストレスを発散させるためという・・・①の理由説明
  • ③体によいことは何一つしないし、たばこ増税もあった・・・①増えていると矛盾する事実の紹介
  • ④それでも増えている・・・③の事実があってもなお増えている事実の紹介

主題を示す①は動かせません。②は①の理由説明、③④は①にかかわる具体的事実です。③の健康被害と増税は一見、①の喫煙者増加と矛盾しますが、④「それでも増えている」をつけることで、マイナス要素(健康被害と増税)が重なったのに、”何で増えているの?”との強い疑問を読み手に抱かせます。

そのうえで、理由はこれこれと説明すれば、なるほど女性のストレスがそれほど強いのか、と納得させられます。①→③④→②こそが、論理的に自然なながれです。ところが、原文ではいきなり答え②を出してしまったため、③④は単なるつけたしになっています。

→論理の整理は関連要素間の関係を考えておこなう

 

 

11、素っ気ない表現に味をつける

原文 日本では動物愛護センターの収容犬猫数に対して殺処分数が9割なのに、英国は1~2割だ。英国は保護期間長く、里親希望者にも開放されている家庭飼育の犬猫の4割がセンターから譲渡されたものだ。

改善例 日本では動物愛護センターの収容犬猫数に対して殺処分数が9割も殺処分されているのに、英国はわずか1~2割だ。英国は保護期間長く、里親制度も充実してるためで、家庭で飼う犬猫の4割がセンターから譲渡されたものだ。

→文相互の関連を踏まえて丁寧につなぐ

いずれも内容面で密接な関係があるのに、それが伏せられているので、素っ気ないのです。

<素気なさを生む具体的原因>

そっけない文章は一読して平板な印象を受け、文と文、言葉と言葉が物切れ状態で投げ出されていがちです。文章は語句や分の集合体であり、それらが有機的に組み立てられてこそ、より効果的に考えや気持ちが伝えられるのです。

  • ①文と文の間の論理関係が不明確なまま並べられている
  • ②事柄を現象面でしかとらえず、本質面にまで目をむけようとしない
  • ③読ませ所に強調にメリハリ表現、適切な助詞が使われていない
  • ④説明不足である

 

12,文のコリをほぐす

原文 患者が抱える病態に対して、医師によって提供する治療方針に大きな差異が存在し、避けられるべき痛みに苦しむ患者をサポートする場面を、私はたびたび体験した。

改善例 医師によっては患者の病態に合わない治療を施し、避けられる痛みに苦しむ寛恕を私がサポートしなければならないことが、たびたびあった

→文のかたさは漢語や専門用語から生じる

一つずつ丁寧にほぐします。

 

 

13、通俗表現を安易に用いない

原文 テレビ番組制作者は、お笑い芸人さえ出しておけば数字が取れると勘違いしているようだ。

改善例 テレビ番組制作者は、お笑い芸人さえ出しておけば視聴率が上がると勘違いしているようだ。

→仲間内の用語、業界用語の使用は慎重に

医療のオペ、クランケ。警察の洗う、落ちる、がセなど業界用語の使用は注意すべき。

 

 

14、抽象的表現に実体を与える

原文 会社の人事の仕事は、経営の「全体最適」と従業員の「個別最適」の間で利害が対立することが多い。

改善例 会社の人事の仕事は、例えば人事異動一つにしても組織全体にとっての最適個々の従業員にとっての最適をそれぞれ図ることが要請され、両者間で利害が対立することが多い。

→抽象表現には説明をつけ、例示で肉付けをする

抽象表現は、さまざまな具体的内容を一つにひっくるめて表せる便利さがあります。でも、具体的内容を全部削ぎ落とした結果だけを見せられると、読み手には何のことかさっぱりわかりません。