事業承継と株式譲渡+相続人に対する株式の売渡し請求+特別支配株主による株式等売渡請求+種類株式+事業承継と種類株式の活用

事業承継と株式譲渡

会社の経営を後継者に引き継ぐ「事業承継」ですが、単に代表者の座を後継者に譲るだけではありません。

株式会社を例にとって考えてみましょう。

株式会社では、株主総会で選出された「取締役(代表取締役)」が会社の経営を行っています。株主が直接経営に携わることはなく、経営の責任を負うこともありません。

これは、株式会社は「所有」と「経営」が分離されている仕組みになっているためで、株主はお金を出資する人、取締役は会社を経営する人と明確にそれぞれを区別しているからです。

ですので、例え株主と代表取締役が同一人物であっても、全く別の立場で考えないといけないという事です。

しかしながら、中小会社では「株主」=「代表取締役」であることが多くみられますので、日常的に意識していることは少ないと思います。

つまり、会社の事業承継とは、株式会社の所有者である「株主」としての事業承継と、経営者である「取締役」の事業承継のそれぞれを別にして考えなくてはいけないという事になります。

事業承継の時期は、その会社の状況により異なりますが、早い時期に後継者に経営を任せることで事業が拡大している事例が多くあります。

どのタイミングで社長の座を譲るのか、どのような方法で事業承継を行うのか具体的な手続きに関しては、税理士などの専門家の意見を参考にしながら、進めていく必要があります。

株式譲渡のタイミングと事業承継後の議決権割合について

株主として、その所有権を事業承継するには「株式譲渡」という手続きが必要です。

そもそも株主は出資額に応じた会社の株式を持っています。大半の会社は「株券」を発行していません(旧商法では株券発行が原則であったが新会社法では「株券不発行が原則」となりました)。

ですから、自分が株主であるという証明は、その会社の「株主名簿」に株主として記載されていることで判断されます。

株主としての事業承継とは、この株式を後継者へ譲渡することにより完了します。つまり、会社の事業形態や役員構成等は変わらないまま、会社の所有者だけを移すことになりますので、取引先や第三者に知られることはありません。

いつのタイミングで株式譲渡を行うかは、大変重要です。

なぜなら株主である社長が仮に亡くなった場合、その持っている株式は相続人に相続されます。後継者が全ての株式を相続できるのであれば問題ありませんが、もし相続により株式が分散されれば、会社の経営は安定しません。

会社の重要事項の決定するためには、全株式の3分の2以上(67%)の議決権を持っている必要があります。

ですので、将来的にも安定した経営をするためには、後継者に事前に67%以上の株式を譲渡することを決めておくのが理想的です。

株式譲渡の手続きは登記が絡みませんので、個人間の話し合いだけで手続きを完了させようとする人がみられますが、株式を譲渡するのに会社の承認を得なくてはならない「譲渡制限会社」であれば、株式譲渡をする前に書面をもって会社に承認を求める必要があります。

もし承認を得ずに個人間の話し合いのみで譲渡した場合、会社に対しては効力を生じませんので注意してください。

せっかくの事業承継も手続きに瑕疵があると無意味ですので、法律の規定に従ってきちんと手続きを行うことが重要です。

 

 

相続人等に対する株式の売渡し請求について

 

Q.株主が死亡しても、株式を相続されないようにしたいのですが、どうしたらよいのでしょうか?

お金や不動産等と同様、「株式」も当然に相続の対象になります。

トヨタやソニーなどの上場会社の株式が相続されることについてはイメージを持ちやすいと思います。

同様に、非上場会社(非公開会社)など「中小企業の株式」についても、同じ株式には違いはありません。当然、相続の対象になります。

相続が始まる(株主が死亡する)と、株式はその相続人が相続し、保有することになります。

いくら自分の会社の株式でも、相続自体をストップさせることはできません。よって、最悪の場合、赤の他人やまったくの第三者が自分の会社の株主になってしまう可能性が出てきます。

小さな会社なのに株主ばかりが増えてしまい、経営に口出しをされようものなら、たまったものではありません。

では、無用な株式分散を防ぐ方法はあるのでしょうか。簡単にできますので、ぜひ、下記を参考にしてください。

定款に相続人等に対する株式の売渡しを請求できる旨の規定を置く。

相続人等への株式売渡請求条項を定款に記載することで防げます。定款に記載を加えるということは定款変更ですから、総会決議が必要にはなりますが、登記事項ではありませんので変更登記は必要ありません。登録免許税もかかりません。株主総会を開き、定款に下記条項を書き加えるのみでOKです。

(相続人等に対する売渡しの請求)
第○条 当会社は相続その他の一般承継により当会社の株式を取得した者に対し、当該株主を当会社に売り渡すことを請求することができる。

従来は株式の譲渡制限の定めをおいても、株式の一般承継を防ぐことはできませんでしたが、今は可能です。現在、旧商法下の古い定款のままの会社さんは、内容を確認し、上記条文が入っていないようであれば、いますぐに定款変更を行っておきましょう。

定款にこの定めがある場合には、相続があったことを知った日から、1年以内に株主総会の特別決議を経て、請求することができます。株式の売買価格は当事者間で自由に決められます。協議がまとまらない場合は、裁判所に対し、売買価格の決定の申し立てを行うこともできます。この売渡し請求条項は事業承継対策に用いられることもありますし、便利な規定ですから、ぜひ、利用してみてください。

 

 

特別支配株主による株式等売渡請求とは?

特別支配株主とは、総株主の議決権の90%以上の株式を持っている大株主のことです。

オーナー兼社長である中小企業にみられることが多く、例えば株式を100株(議決権は100個)発行している会社であれば、90株以上持っている株主が特別支配株主となります。

この特別支配株主は、自分以外の残り10%の株式を持っている全株主(売渡株主)に対して、その保有する株式全部を自分に売り渡すことを請求することができます。

これを「特別支配株主による株式等売渡請求」といいます。

平成26年会社法改正により制度化されたもので、平成27年5月から利用できるようになりました。

この制度の大きな特徴は、売渡株主の個別の承諾が不要だという点です。会社法に定める手続きに従ってきちんと手続きを踏めば、相手側の承諾なしに株式を取得することができるのです。

相続の際や事業承継の問題点として、株式の分散があります。

この制度を利用することにより、株式を1人に集約することで相続対策、事業承継を円滑に行うことが期待できます。

株式等売渡請求手続きの概略・流れ

(1)特別支配株主から会社への通知

売渡株主に対して株式等売渡請求をすること、対価の額・算定方法、取得日等を決めて会社に通知します。

(2)会社の承認と特別支配株主への通知

会社は取締役会を開催して、株式等売渡請求を行うことを承認します(取締役会非設置会社は取締役の決定)。

承認後に特別支配株主へ承認したことを通知します。

(3)売渡株主に対する通知

会社は売渡株主に対して取得日の20日前までに株式売渡請求を承認していること、売渡の条件などを通知します。

(4)事前開示書類の備え置き

会社は売渡株主に対する通知から取得日後6ヶ月(非公開会社は1年)を経過する日までの間、株式等売渡請求に関する資料を会社に備え置きます。

(5)売渡株式等の取得

特別支配株主は、取得日に売渡株式全部を取得します。対価を支払う前であっても効果があります。

(6)事後開示手続

会社は取得日後遅滞なく、特別支配株主が取得した株式の数などを記載した書面を作成し、取得日後6ヶ月(非公開会社は1年)を経過する日まで会社に備え置きます。


尚、売渡株主は請求を拒否することはできませんが、救済制度として、売買価格が著しく不当である場合や手続きが法令に違反している場合などに、裁判所に差し止め請求等を行うことができます。

また、売買価格に不服ある場合は、取得日の前日までに裁判所に公正な価格の決定を求めることができます。

株式等売渡請求制度の特徴

  • 株主総会の決議が不要(取締役会の承認でOK)
  • 特別支配株主のみが利用できる
  • 議決権は他の株主と合算することはできない
  • 売渡株主の承諾は要らない
  • 取得日が到来すると特別支配株主が全株式を取得する
  • 全株式が対象であり、一部の株式だけを取得することはできない
  • 公開会社でも非公開会社(譲渡制限会社)でも制度を利用できる

本来、株式の譲渡は当事者間の話し合いにより行いますが、合意が困難な場合は、この株式等売渡請求を検討してみるのも良いでしょう。

ただし、手続きに瑕疵があった場合や売買価格が不当であった場合などは、差止事由や無効原因となる可能性もありますので、手続きは慎重に行うようにしましょう。

 

 

種類株式とは?

種類株式と普通株式の違いって?

あまり知られていませんが、株式会社では複数の種類の株式を発行することができます。

一般的に「株式」と呼ばれているものは「普通株式」のことを指します。

1つの株式に与えられる権利は原則平等であり、株式を保有している株主は株主総会での議決権を有することで経営に参加したり、配当を受け取る権利など、その保有する株数に応じた権利を有しています。

この普通株式とは別に「権利の内容が異なる株式」を発行することができます。これを「種類株式」といいます。

例えば、株式投資をされている人は聞いたことがあるかもしれませんが、配当金を普通株主よりも優先的に受け取る権利のある株式があります。

「優先株式」と呼ばれたりもしています。

この株式は会社の経営に参加する議決権がないのが一般的で、経営には興味がないが優先的に配当を受けたいといった投資家向けに発行されることが多くあります。

このように種類株式では「株主ごとに異なる配当ができる株式」を発行したり、「議決権を制限できる株式」を発行したりと権利や内容の異なる2つ以上の種類株式を発行することができます。

種類株式は、下記9つの種類があります。

会社法に規定されている種類株式

1.剰余金の配当

配当優先(劣後)株式。株主ごとに異なる配当ができる(参考:優先株式とは?

2.残余財産の分配

残余財産分配優先(劣後)株式。株主ごとに異なる分配ができる(参考:優先株式とは?

3.議決権制限種類株式

株主総会での議決権を制限できる(参考:議決権制限株式とは?

4.譲渡制限種類株式

特定の種類株式のみ譲渡を制限できる。

5.取得請求権付種類株式

s株主が会社に対して所有している株式を買い取ることを請求できる。

6.取得条項付種類株式

一定の事由が生じた場合に株主から株式を取得することができる(参考:取得条項付株式とは?

7.全部取得条項付種類株式

株主総会の決議により株式の全部を株主から取得することができる(参考:全部取得条項付株式とは?

8.拒否権付種類株式(黄金株)

株主総会の決議の他、種類株主総会の決議が必要とすることができる。「黄金株」とも呼ばれています

9.選解任種類株式

種類株主総会で取締役、監査役を選任することができる(参考:役員選任・解任権付株式とは?

種類株式を発行するにはどんな手続が必要?

新たに種類株式を発行するには、株主総会の決議による定款変更が必要です。

定款に「発行する種類株式の内容」と「発行可能種類株式総数」を定めてその旨の登記を行う必要があります。

また、普通株式のみ発行している会社がその一部を種類株式に変更する場合には、株主総会での決議、種類株式への変更を希望する株主全員の合意及び普通株式に留まる株主全員の同意を得る必要があり、株主の人数によってはハードルが高い手続きとなります。

上記の種類株式とは別に、非公開会社(譲渡制限会社)においては、

  • 剰余金の配当
  • 残余財産の分配
  • 株主総会における議決権

の3つについて、株主ごとに異なる取扱いをすることを定款に定めることができます。

この定款で株主ごとに異なる取扱いを行う株式を「属人的種類株式」といいます。

例えば、1.剰余金の配当と2.残余財産の分配の権利は与えるが、3.株主総会における議決権については与えない株式を発行することもできます。

会社の株主が少人数の非公開会社(譲渡制限会社)であれば「属人的種類株式」を発行する方が手続きが簡単ですので、資金を調達したいが、支配権はそのまま維持したい場合等に検討してみてはいかがでしょうか。

 

 

事業承継と種類株式の活用

事業承継において種類株式を活用する場面が増えてきています。

後継者に一定数以上の議決権を与えておかなければ、会社経営に影響を及ぼすことになります。

ただ単に後継者に株式を譲渡するのではなく、どのようにして後継者に株式を集中させるかが重要になってきます。

種類株式とは、定款に定めることによって、その種類ごとに議決権や財産権等を普通株式とは異なる内容で発行できる株式の事です。

種類株式は全部で9種類ありますが、特に事業承継で活用できるのは「議決権制限種類株式」と呼ばれている、株主総会における議決権の制限がある種類株式と黄金株とも呼ばれている「拒否権付種類株式」です。

  1. 剰余金の配当(優先株式)
  2. 残余財産の分配(優先株式)
  3. 議決権制限種類株式
  4. 譲渡制限種類株式
  5. 取得請求権付種類株式
  6. 取得条項付種類株式
  7. 全部取得条項付種類株式
  8. 拒否権付種類株式 (黄金株)
  9. 役員選解任権付種類株式

事業承継において、社長の後継者には普通株式、後継者以外には「議決権制限種類株式」を相続させることで、後継者によって安定した経営が確保されます。

例えば、A社の発行済み株式1000株のうち400株が「株主総会において議決権を行使することはできない」とした「議決権制限株式」であった場合、株主総会で議決権を行使できるのは600株を持っている株主のみになります。400株を持っている株主は会社の経営に口出しすることはできません。

つまり、「議決権制限種類株式」は議決権はありませんが、議決権以外の株主の権利である配当を受ける権利や残余財産の分配を受ける権利などは有していることになります。

しかし、株主総会の議決権がない株式では、株主にとって何もメリットはありません。議決権以外の他の権利が同じであるなら、議決権がある普通株式の方がメリットがあるからです。

そこで、種類株式の一つである「剰余金優先配当株式」を組み合わせて発行することにより、議決権はないが優先的に配当を受ける権利付けることで普通株式との差をつけ、後継者以外の相続人に対してもメリットがあるように発行することができます。

黄金株とも呼ばれている「拒否権付種類株式」は、株主総会で決議された議案について拒否できる権利が付いている種類株式のことです。

事業承継において、普通株式を全て後継者に与えて引退しても、この黄金株を持っていれば実質的に会社に対して発言権が持てます。

後継者に社長の座を譲ったあとも一定期間は様子を見ていたい場合、まだ完全に経営から退くのは不安がある場合などに、この拒否権付種類株式を発行しておけば、会社にとって重要な議案に関する決定権を持っていますので、後見人的な立場で経営に介入することができます。

全ての決議事項について拒否権を付けることもできますし、会社にとって重要な事項、例えば会社の役員を選任する、会社を解散するなどの場合にのみ拒否権を付けることもできます。

黄金株は強力な権利が付いていますので、どうしても譲れない事項についてだけ拒否権を付けるように設計した方が良いでしょう。

このように種類株式は単独で発行することも9種類の中から組み合わせて発行することも可能です。種類株式を組み合わせることにより、会社の実情に応じた種類株式を発行することができるため、円滑な事業承継を目指すことができます。

種類株式を活用する上では、株式の権利の内容、発行価格などの税務上の評価、発行するタイミング等、様々なことを考慮しながら発行する必要があります。

実際に種類株式を利用する場合には、事前に税理士、弁護士等の専門家に相談することが大事です。

 

 

「普通株式」を「種類株式」に変更する手続きについて

いわゆる「普通株式」しか発行していない会社が「種類株式」を発行したい場合、定款において発行する種類株式の内容とその発行可能株式総数を規定しなければなりません。

これは定款変更に該当しますので、株主総会の特別決議「株主総会において議決権を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の3分の2以上の多数」の賛成を得る決議が必要となります。

種類株式を発行するには、

(1)既存の発行済み株式はそのままで種類株式を追加して発行する場合

(2)既存の発行済み株式の一部を種類株式に変更する場合

があります。

(1)の場合は、普通株式の増資手続きと同様に種類株式を発行して出資を募ることになります。

既存株主に加え、新たに種類株主が増えることになります。

(2)の場合は、発行済み普通株式の内容を種類株式に変更する手続きが必要です。

例えば、普通株式を1000株発行している株式会社が、そのうち500株を議決権はないが配当が優先的にされる「無議決権配当優先株式」にしたいといった場合です。発行済の普通株式の数が減少して、優先株式が生じることになります。

もちろん会社が勝手に株式の内容を変更することはできません。既存株主にとっては普通株式だと思っていたのに、いきなり権利の内容が違う株式に変更されるのは納得がいきませんよね。

特定の株主だけ株式の内容を変更することから、「株主平等の原則」に反することになります。

そこで、種類株式を発行することについて、株主全員の同意が必要となります。

<普通株式を種類株式に変更する手続きの流れ>

  1. 株主総会で定款変更の特別決議(発行する種類株式の内容を規定)
  2. 種類株式へ変更を希望する株主全員の合意
  3. 普通株式に留まる株主全員の同意
  4. 法務局へ登記申請

まず前提として、株主総会で定款変更の特別決議を経ます。

次に発行済株式のうち誰の所有している株式を種類株式とするかを明確にします。

種類株式に変更することに合意をした株主の「合意書」を作成します。

そして、種類株式に変更せず普通株式に留まる株主の全員の同意を得て「同意書」を作成します。

この同意書は株主ごとに作成しても株主全員の連名で1枚で作成しても差し支えないものとされています。

全ての書類を作成したら、法務局へ登記申請を行います。

このように発行済み株式の一部を種類株式に変更するには、株主全員が同意できる状況でなければ難しいという事になります。