退職前の賢い有給消化マニュアル

転職先が決まって退職するときに有給休暇がまだ残っているという人も多いのではないでしょうか。

退職前に有給を使い切りたいと申し出ててもいいの?
会社に迷惑をかけずに、有給消化するためにはどうしたらいい?

退職前の有給消化を円満に進めるためのコツと、有給消化にまつわるトラブル解決策を紹介します。

 

1.退職前の有給消化は可能なのか?

会社を辞めるときに気になるのが、残っている有給のこと。本当は休む権利があったはずなのにもったいない…、でも諦めるしかない…と考えている人も少なくないことでしょう。

退職前には、残っている有給をまとめて消化してから退職することができます
まずは有給消化の考え方から確認してみましょう。

退職時、残っている有給はまとめて消化できる

退職する前に残っていた有給をまとめて取得することは可能です。
辞めることが決まっているのに有給をとるなんて後ろめたいと思っている人もいるかもしれませんが、有給は労働者に与えられた権利ですから、心配いりません

しかし、有給は計画的に少しずつ消化しておいたほうが良いという企業も数多くあります。
円満退社を目指すなら、既に退職していった人たちが有給をまとめて消化していたか、それとも事前にコツコツ取っていたかを確認して踏襲するのも良いでしょう。

退職前の有給消化のパターンは2つある

退職前に有給をまとめて使い切る場合、最終出社日の前に有給消化するか、それとも後にして有給消化後に最終出社日を迎えるかの2つのパターンがあります。

<最終出社日の前に有給をとる場合>

引き継ぎを終わらせた後に有給消化し、荷物整理や挨拶などのために退職前に何日か出社する場合、「最終出社日=退職日」となります。

<最終出社日の後に有給をとる場合>

最終出社日の翌日から有給消化期間に入る場合、「有給の最終日=退職日」となり、最終出社日と退職日が別の日になります。

 

2.退職前の有給消化をスムーズに行うためには事前準備が大事

退職時に無事に有給を取得するにあたっては、職場に迷惑をかけないことが第一です。
有給日数の確認や引き継ぎ期間を考慮した退職日の設定など、事前準備が重要です。

あらかじめ有給日数を確認しておく

まずは、自分が取得できる有給日数があと何日あるのかを把握します。
有給の残り日数は、基本的に給与明細に記載されています。記載がなければ担当部署に聞く、あるいは就業規定や労働基準法に定められた日数を調べ、すでに取得済みの日数を引いて自分で計算するなどの方法があります。

労働基準法では、有給休暇の日数は以下のように定められています。
一般の労働者の場合、入社後6ヶ月が過ぎ、全労働日の8割以上出勤すれば10日の有給が付与されます。その後は、勤続年数1年ごとに一定日数がプラスされます。

1週間の労働時間が30時間未満の派遣社員やパートタイムの場合は、その勤務日数に応じて有給の日数が決まります。
会社によっては、さらに特別休暇が設けられていることがあります。

<表1:一般の労働者の場合>

 

出典:年次有給休暇とはどのような制度ですか。‐厚生労働省

勤続年数が半年たったら10日の有給がもらえます。3年半では14日、5年半で18日と増えていきます。

<表2:パートタイム労働者の場合>

 

 

出典:年次有給休暇とはどのような制度ですか。‐厚生労働省

例えば、週3日勤務で半年以上勤めれば、5日の有給がもらえます。1年半で6日、3年半では8日、5年半で10日と増えていきます。

退職日は有給消化+引継ぎの日数を踏まえて相談する

退職日は、有給消化と引き継ぎの期間を十分に考慮した上で会社と相談します。
通常の有給取得の場合は、有給申請をした時期が決算期などの繁忙期にあたる場合、会社側には有給取得の時季を変更できる「時季変更権」が認められています。

しかし、退職前の有給消化の場合、退職日を超えて休暇日を変更することはできません。無理に有給を消化しきろうとして会社の業務に支障をきたすことのないよう、退職日はしっかりと上司と相談して決めましょう。
その際は有給期間や引き継ぎの期間、転職先が決まっている場合は入社日との兼ね合いも含めて考えてください。

申請理由は「退職時の有給消化のため」でOK!

退職時の有給取得に申請書の提出が必要な場合、理由欄には「退職のための有給消化」と記載して問題ありません。

本来有給取得のために理由は必要なく、安易な時季変更権も認められません。ただし、突然有給の申請書を提出するのはもちろんNG。
事前に上司と相談した日程について、形式として書面を提出するのだと考えてください。

3.退職前の有給消化が許可されないときの解決策

手順を踏んで有給取得の申請を出しても、会社が渋って許可されないケースもあるようです。
有給の買取りを提案される場合もありますが、そういった代替え案もなく、どうしても有給消化したいときは、以下のような手順を踏んでみましょう。
(※有給の買取りについてはこちらをご参照ください)

十分な引継ぎ期間が設けられているかなど再確認する

退職日は、引き継ぎの期間が十分に設けられた無理のない設定になっているか等、会社の合意を得られる申請内容になっているかどうか再度確認してみましょう。
退職時期をなるべく繁忙期とずらすなど配慮することで有給も取りやすくなることがあります。

さらに上の上司や総務部に相談する

直属の上司に許可してもらえない場合、自分に非がないことを確認した上で、さらに上の上司や総務部に相談してみましょう。
補充人員の手配を早めたり、完全に消化しきるのは難しくても、せめて半分は消化できるように調整するなどの妥協案を提示してもらえるかもしれません。

労働基準監督署に相談するという方法も

社内に直属の上司以外に相談する人がいない場合は、労働基準監督署に相談するという方法もあります。

まずは、労働基準監督署に出向いて、会社側の法律に違反している点などを教えてもらいます。
実際に労働基準監督署が勤務先と交渉してくれるケースは少ないようですが、再度勤務先と話し合いをする際に、「労働基準監督署では○○○○○と言っていました」と裏付け材料にすることができます。

このように段階を踏んで話し合いを進めることで、会社側の考えにも変化が出るかもしれません。
くれぐれも、交渉が終わらないうちに無断で休むことのないように!

4.退職前の有給消化にまつわる疑問点

他にも退職前の有給消化については、さまざまな疑問があることでしょう。

退職前に消化しきれない有給は買い取ってもらえるの?

通常の有給休暇の買取りは、労働基準法で原則的に禁止されていますが、退職時に消化しきれない有給の買い取りに関しては例外として認められています。
ただ、買い取りは義務ではないので、実行するかどうかは会社の就業規則によって異なります。解雇による退職も、これと同じ扱いになります。

ちなみに、買い取り金額は、企業が独自に決定することができます。例えば以下のような例があります。

  • 月給を1ヶ月の平均的な労働日数で割った金額にする
  • 平均賃金(退職前3ヵ月間の賃金総額÷3ヵ月間の総日数)
  • 任意の金額(正社員は5,000円、パートタイム労働者は3,000円など)

どうしても退職前に有給を取りきれない場合は、買い取りを希望して交渉するのもひとつの手です。

リストラで1ヶ月後に退職となった場合、有給消化はできる?

会社都合による解雇の場合でも、有給消化はもちろんできます。

解雇通知は30日前に行えばよいことになっているため、もし40日の有給が残っていたら、告知の翌日から有給を取得したとしても30日しか消化できず、残りの10日は消滅してしまうことになります。
この場合は、有給休暇の日数分だけ、解雇までの期間を延ばしてもらえないか相談してみましょう。
期間延長が無理な場合は、有給を買い取ってもらえないか申し出るという方法もあります。

病気やケガで休職後に退職する場合、有給消化はできる?

基本的に、休職中は「労働義務がない日」にあたるので有給は取得できません。
休職期間満了に伴い自動退職する場合は、有給消化の請求権はないとされています。
通常は、休職中に有給をあてて、すべての有給を消化した後に傷病手当をもらうケースが多いようです。

派遣社員は退職時に有給消化できるのか?

派遣社員は、派遣元と労働契約を結んでいるため、派遣先ではなく派遣元から有給を取得することになります。
また、有給日数は、雇用形態にかかわらず週何日勤務したかによって付与されるため、派遣社員にも有給の権利はあるのです(表2参照)。

派遣社員が退職時の有給消化をする際に気を付けたいのが、派遣契約期間外では有給を取得できないということです。
例えば、有給が10日残っているが、業務が忙しくて契約満了日までに消化できない場合があります。
この場合、契約期間外では有給取得できないため、有給消化の日数分、契約期間を延ばしてもらえないか相談してみましょう。

また、多くの派遣会社では、契約満了日以降、1ヶ月以内に次の派遣先が決まれば、派遣会社との契約が継続していると見なされ、次に派遣される会社で残った有給を取得できるというルールを採用しているところも多いようです。

退職前の有給消化中に短期のアルバイトをしてもいいの?

有給消化中は企業に在籍していることになるので、就業規則を守るべき期間です。
在籍中の企業が副業禁止としている場合、有給消化期間中にアルバイトをすれば違反となり、解雇されることもあります。
退職金がもらえなくなるなど、不利になることもあるので、就業規則を確認しましょう。

退職前の有給消化中にボーナスはもらえるの?

企業の就業規則によって異なります。ボーナスの支払いに関して、「支払日に在職中の者すべて」と記載されていれば、有給消化中であっても在籍扱いとなるため、もらうことができます。
ただし、有給消化中は実際に勤務しているわけではないので、減額されるケースもあります。

退職前の有給消化中に転職先の仕事を始めても大丈夫?

多くの企業では、二重就労を禁止していますが、在籍中の企業と転職先の了解があれば禁止規定に触れることはありません。
兼業禁止の場合、懲戒解雇になる場合もあり、退職金がもらえなくなることもあります。
ちなみに、雇用保険は二重加入ができないため、在籍中の企業に、退職前に雇用保険の資格喪失手続きを行ってもらう必要があります。健康保険、厚生年金、労災保険は二重加入できます。

5.まとめ

いかがでしたか?
退職時の有給消化は、労働者に与えられた権利なのでもちろん可能ですが、就業規則などを確認し、引き継ぎ期間を十分に設けるなど事前準備をしっかりすることが大事です。
円満退社するためにも、会社側の都合も考慮し、社会人としてのマナーに則った対応を心がけましょう。