ネットやテレビのニュースで「諭旨解雇」や「諭旨退職」といった言葉を耳にしたことはありませんか?「聞いたことはあるけれど、具体的な内容がわからない……」。この記事では、そんな疑問を持っている方のために、まずは解雇の基本情報からわかりやすく解説していきます。「会社から解雇されるかも」「もしかして、あの行動は諭旨解雇になるのでは?」。そんな方々の不安も解消していきます。
1.諭旨解雇・諭旨退職とは何か?
はじめに、解雇についての解説と、諭旨解雇、諭旨退職の説明をしていきます。
解雇は「懲戒」「整理」「普通」の3種類。諭旨解雇は懲戒解雇の一部
諭旨解雇は懲戒解雇の一部です。
そもそも解雇(公務員の場合は免職)とは、従業員の意向とは関係なく、会社が一方的に従業員を辞めさせることをいいます。
解雇するためには正当な理由が必要であり、その内容によって懲戒解雇(問題行動を起こした従業員への処分)、整理解雇(リストラ)、普通解雇(懲戒解雇、整理解雇以外)に分けられます。雇用保険上の区分けでは、懲戒解雇は自己都合退職になり、整理解雇や普通解雇は会社都合退職となります。
解雇するための条件やルールは、労働基準法などで決められています。また、就業規則や労働契約書でも明らかにしておかなければならず、むやみに従業員を解雇することはできません。
また、諭旨解雇は上記3種類の解雇とは異なり、法的に定められた法律用語ではありません。そのため会社によって対応はさまざまで、場合によっては諭旨解雇という制度をもうけていないこともあります。
以下に基本的な解雇の内容と、それぞれのメリット&デメリットを記載します。
●解雇の種類
◆懲戒解雇
極めて悪質な規律違反や犯罪をおかした従業員への懲戒処分として行う解雇。諭旨解雇は懲戒解雇を軽くした処分です。たとえば、経歴詐称、収賄、セクハラ、機密情報の漏えい、交通違反などを起こしたときに受ける処分です。
◆整理解雇
いわゆるリストラ。会社の経営悪化により、人員整理を行うための解雇。
次の4点を満たす必要があります。
① 客観的にみて整理解雇する必要があること
② 解雇を避けるために会社が最大限の努力をしたこと
③ 解雇の対象となる人選の基準、運用が合理的に行われていること
④ 会社と従業員の間で十分に協議したこと
◆普通解雇
整理解雇、懲戒解雇以外の解雇で、労働契約の継続が困難な事情があるときに限られます。
(例)
・勤務成績が著しく悪く、指導を受けても改善できないとき
・健康上の理由で、長期にわたり職場復帰できないとき
・著しく協調性がなく業務に支障を与えて、改善できないとき
●解雇のメリット&デメリット
※会社の就業規則によって対応が異なる場合があります。
諭旨解雇は会社の温情策で懲戒解雇を軽くした解雇
懲戒処分は、会社のルールに違反する従業員への制裁です。この懲戒処分にもいくつかの段階があり、従業員が犯した違反内容によって対応が異なります。
もっとも重い処分が懲戒解雇で次が諭旨解雇となります。懲戒解雇は即日解雇も可能で、解雇予告手当や退職金が支払われないこともあります。
以下に、懲戒処分の内容を紹介します。
●懲戒処分の内容(下に行くほど軽い処分になる)
懲戒解雇 ↓ 諭旨解雇 ↓ 諭旨退職 ↓ 出勤停止 ↓ 減給 ↓ けん責(不正に対して厳しくとがめたり、始末書を書かせること) |
諭旨解雇は、従業員が懲戒解雇に相当する不祥事を犯したにもかかわらず、普通解雇と同様に解雇を予告、もしくは解雇予告手当を支払い、さらに退職金を支払ったうえで従業員を解雇することです。
従業員が自らの違反行為を深く反省しているため、会社が情状酌量の余地があると判断した結果の温情措置といえます。
諭旨退職は退職願の提出を促す会社の温情策
諭旨退職は、諭旨解雇に該当するケースではあるものの、会社が従業員に退職願の提出を促し、従業員自ら退職願を提出して退職すること。
「反省の姿勢を示して期限までに自主的に退職願を提出するならば、懲戒解雇は行わず自己都合退職として取り扱う」といった情状酌量的な対応です。
会社が従業員を諭旨解雇する場合、懲戒処分にも関わらず解雇予告手当などの費用が発生します。そのため、すべてのケースにあてはまるわけではありませんが、会社側はその負担を減らすため、諭旨退職の措置をとるといったケースもあるようです。
また、従業員に非があるとはいえ、従業員を解雇することが会社のイメージを傷つけるとの考えから諭旨退職を選択するケースもあるようです。
諭旨解雇も諭旨退職も法律で定められてはいないため、会社によって判断基準や対応はまちまちです。場合によっては、上記の諭旨退職の内容を諭旨解雇だと定めているケースもあるようです。
いずれの場合でも、会社の就業規則に諭旨解雇や諭旨退職の要件やルールを明記していなければいけません。
2.諭旨解雇の内容と再就職への影響
ここでは、諭旨解雇についてわかりやすく解説していきます。再就職の際にどんな影響があるのかについても触れていきます。
諭旨解雇は、解雇予告手当、退職金、失業給付金を受け取れる
会社が従業員を解雇するときは、どんな理由であっても30日前までに解雇予告するか、解雇予告の代わりに解雇予告手当を支払って即日解雇します。
したがって、諭旨解雇も解雇予告手当を受け取れます。退職金についても支払われることが多いようですが、全額支払われるかどうかはケースバイケースのようです。
また、雇用保険の失業給付金を受け取ることもできますが、自己都合退職や懲戒解雇による退職者(「一般受給資格者」)は給付制限があるため、ハローワークに離職票を提出してから7日+3ヶ月後に初めて支給が始まります。
懲戒解雇よりは再就職の可能性高い。履歴書の職歴は「退職」でOK
諭旨解雇は、会社が従業員の再就職やその後の人生を考慮したうえで、懲戒解雇ほどの社会的制裁を与えないという温情策です。
したがって、懲戒解雇よりは再就職の道が開けているといえるでしょう。履歴書の職歴欄は、前職を「退職」としておけば問題なく、具体的な退職理由を書く必要もありません。
現在の履歴書には賞罰欄がないものが多く、ハローワークが公開している履歴書の書き方見本にも、「賞罰」については記入されていないため、一般的には書く必要はないでしょう。
ただし、会社から指定された履歴書などのフォーマットに「賞罰」欄がある場合、事実を記載しないと告知義務違反に問われることもあります。
諭旨解雇でも懲戒解雇であっても書かなければならない「罰」は、原則として「刑事罰」に限定されます。刑事罰とは、刑法犯を犯して有罪判決を受けて科された罰のこと。懲役、禁固刑、罰金刑などが含まれます。
一方、行政罰とは、行政法のうえでの義務を履行しなかった場合に科される罰のことです。わかりやすい例を挙げると、軽い交通違反などがこれに相当します。
面接時に申告する必要なし。離職票・退職証明書には諭旨解雇の記載あり
基本的には再就職する際、前の会社を諭旨解雇されたという退職理由が明らかになることはないようですし、面接時に申告する必要もありません。
ただし、転職先から離職票・退職証明書のいずれかの提出を求められた場合は、退職理由の記載欄があるため明らかになってしまうようです。その場合は、面接で事の詳細を説明しなくてはならないかもしれません。
また、業界内での噂やニュースなどで諭旨解雇されたという事実が明らかになってしまうこともあるでしょう。
3.諭旨退職の内容と再就職への影響
次に諭旨解雇と混同しやすい諭旨退職について解説していきます。再就職の際にどんな影響があるのかについても触れていきます。
諭旨退職は、解雇予告手当てはなし。ほかは諭旨解雇と同等
諭旨退職は解雇ではなく自己都合退職になるため、解雇予告手当は支払われません。退職金や雇用保険の失業給付金に関しては、諭旨解雇と同様の扱いになります。
履歴書の職歴は「一身上の都合」。自己都合退職なので再就職可能
諭旨退職は自己都合退職として扱われるため、転職活動のネックとなることは少なく再就職の可能性は高いでしょう。履歴書の職歴欄は、前職の退職理由を「一身上の都合により」としておけば問題ありません。
離職票・退職証明書の提出で明らかに。面接時の申告は不要
諭旨退職の場合も、諭旨解雇と同様に、転職活動中に退職理由が明らかになることはないでしょう。面接時の申告も不要です。
ただし、転職先から離職票・退職証明書のいずれかの提出を求められた場合は、退職理由の記載欄があるため明らかになってしまうようです。その場合は、面接で事の詳細を説明しなくてはならないかもしれません。
4.諭旨解雇と諭旨退職の違い
ここでは、諭旨退職した後、再就職への影響があるかどうかを探っていきます。
諭旨解雇&諭旨退職は、会社都合退職や退職勧奨とは違うので注意!
普通解雇や整理解雇の雇用保険上の退職理由は会社都合退職になりますが、本人に非がある懲戒解雇は自己都合退職となります。
したがって、懲戒解雇の一部である諭旨解雇も自己都合退職となります。「解雇」=会社都合退職と混同しないよう注意しましょう。
諭旨退職は、会社が従業員に退職願を提出するよう促すという点では退職勧奨のようにも見えますが、こちらも諭旨解雇同様、本人に非がある懲戒処分のひとつであるため、自己都合退職となります。
退職願を出さない場合は懲戒解雇になるケースも
諭旨退職の判断が下されたとき、決められた期限までに退職願を出さず、退職時期をむやみに引き延ばすと、会社からの温情案を受け入れないと判断され、場合によっては懲戒解雇になってしまうこともあります。
ちなみに、懲戒解雇は雇用保険の区切りでは自己都合退職になるため、3か月の給付制限の後に失業給付金を受け取れます。
5.こんなときは懲戒解雇? それとも諭旨解雇&諭旨退職?
懲戒処分の判断は会社によって様々ですが、ここではよく見られる具体例をあげながら諭旨解雇&諭旨退職になることが多いケースを紹介していきます。
Q.業務に関係ない私生活で不祥事を起こした場合でも懲戒処分が下る?
私生活で痴漢行為や暴力事件、交通事故などの不祥事を起こした場合も、懲戒処分になるのでしょうか?
A.基本的に懲戒処分は、職場外で起きた業務に直接関係ない違法行為は対象となりません。
しかし、その行為が企業秩序や業務の運営に多大な悪影響を与えると客観的に認められ、就業規則の明記がある場合には、懲戒処分の対象となります。
不祥事を起こした社員が指導的な立場にある場合、業務の内容上、規律を守ることが強く求められる場合などは懲戒解雇も考えられますが、そこまでの判断がためらわれる場合は諭旨解雇や諭旨退職といった温情策をとることが多いようです。
以下に実際の判例をご紹介します。
<実例1> 私生活での不祥事でも懲戒解雇になった例/小田急電鉄事件 (東京高裁/平成15年12月11日判決/労働経済判例速報867号5頁) ▼内容 そこで、会社は懲戒解雇処分とともに、退職金を不支給とした。これに対し、従業員は退職金の全額不支給は不当として、支払い請求の裁判を起こした。 ▼判決 (参考)退職金の不利益的取扱い(小田急電鉄事件)|社会保険労務士事務所 早稲田労務経営 |
<実例2> 通勤時に起こした不祥事でも諭旨解雇が無効になった例/東京メトロ事件 (東京地裁/平成26年8月12日判決/労働経済判例速報1104号64頁) ▼内容 会社は痴漢行為を行った従業員に対しての就業規則に基づき、従業員を諭旨解雇した。これに対し従業員は諭旨解雇が無効だとして裁判を起こした。 ▼判決 (参考)私生活上の非行に対する懲戒処分の限界(東京メトロ(諭旨解雇・仮処分)事件))|弁護士法人 天満法律事務所 |
Q.諭旨解雇に納得できないときは不当解雇として異議申し立てできる?
A.基本的に諭旨解雇は、本人に非がある懲戒処分のひとつであるため、不当解雇として異議申し立てをしても認められないことが多いでしょう。
それでも、諭旨解雇の処分は重すぎるといった不服を唱える場合は、裁判で争うことになります。時間と費用、精神的な負担を抱えなくてはいけないことを覚悟しなくてはいけません。
6.まとめ
諭旨解雇や諭旨退職についての疑問や不安が解消できましたか? 最後にもう一度諭旨解雇と諭旨退職についておさらいします。
◆諭旨解雇
・会社の温情策により懲戒解雇を軽くした解雇
・解雇予告手当、退職金、失業給付金を受け取れる
・懲戒解雇よりは再就職の可能性高い。履歴書の職歴は「退職」でOK
・面接時に申告する必要なし。離職票・退職証明書には諭旨解雇の記載あり
◆諭旨退職
・問題を起こした従業員に対して、会社が退職願の提出を促して退職させる温情策
・解雇予告手当てはなし。ほかは諭旨解雇と同等
・履歴書の職歴は「一身上の都合」。自己都合退職なので再就職可能
・離職票・退職証明書の提出で明らかに。面接時の申告は不要