残業代について

一、残業代の基礎

二、未払い残業代請求方法

三、残業時間の平均と残業事情

 

残業代の基礎

 

給与明細には、基本給のほかに「時間外手当」「残業手当」といった項目があります。残業した分がもらえる、と考えているだけで、正しく計算されているか、確認したことのない人も多いのではないでしょうか。

そこでこの記事では、正しい残業代の計算方法を解説します。今月の残業代がいくらなのか手軽に計算したい人も、残業時間に対して残業代が少ないので正しく把握したいという人も、この記事を読めば正しい残業代を自分で計算できるようになります。

また、未払いの残業代を会社に請求したいと考えている人は、「未払い残業代の請求方法 完全ガイド」も併せてご覧ください。

 

1. 残業代発生の基本と正しい計算方法

電卓を持ちOKサインをする女性

残業代を計算するためには、1時間あたりの給料がいくらで、何時間残業したかを把握することが必要です。

1時間あたりの給料は「給与明細」から、何時間残業したかは会社の勤怠管理システムやタイムカードなどで「実働時間」を確認すればわかります。計算する前に準備しておきましょう。

「週40時間、1日8時間」を超えたら25%割増の残業代が発生

「週40時間、1日8時間」の法定内労動を超えて働くと、その時間は「残業」と呼ばれます。残業に発生する賃金は、1時間あたりの賃金の25%増となります。これが残業代の基本です。

たとえば定時が9時~18時(休憩1時間)、週5日で働いていれば週40時間働いていることになります。この働き方をしている人が18時を過ぎても仕事をしていれば、残業代が発生するというわけです。

【コラム】法定時間外労動と法定時間内残業

上記のように会社が決めた定時がすでに週40時間を超えている人には「法定時間外労動」しか発生しませんが、定時が週40時間に満たない場合は、「法定時間内残業」が発生する可能性があります。
時短勤務の人や週に働く日数の少ない人、会社の定時が8時間よりも短く設定されている人などに該当します。双方の違いは以下のとおりです。

法定時間外労動
労働基準法第32条で「法定内労働」と定められている「週40時間、1日8時間」を超えた際に発生。「1時間あたりの賃金×1.25」で計算します。

法定内残業
「週40時間、1日8時間」には満たないものの、企業の定めた所定労働時間(定時)をオーバーした際に発生。法律上、割増賃金の規定はなく、1時間あたりの賃金が支払われていればOK。ただし独自に割増賃金を設定している会社もあるようです。

 

残業時間の基本的な数え方

自分がどのくらい残業しているのかわからない人は、まずは会社の決めた定時(所定労動時間)を確認してみましょう。実働時間が所定労動時間を超えていれば、超えた分が残業時間となります。

また、実働時間は実際に働いていた時間を意味します。下記のように、働いていなかった時間は含まれないことに注意しましょう。

【実働時間に含まれない時間】
・休憩時間
・遅刻や早退などで勤務していなかった時間
・有給休暇を取得した日

残業代の基本的な計算式

大まかな残業代は、「1時間あたりの賃金(時給)×1.25(割増率)×残業時間」で算出できます。

1時間あたりの賃金がわからない場合は、「月給÷(1ヶ月の所定労働時間〈定時〉×21日〈1ヶ月の勤務日数〉)」で割り出しましょう。1ヶ月の勤務日数は、休みの多い月などは21日よりも少なくなります。

例えば月給25万円、定時が9時~18時(実働8時間)の人が1ヶ月で20時間残業したとすると、残業代は以下のように計算できます。

1時間あたりの賃金[25万円/8時間×21日]×1.25×20時間
=1時間あたりの賃金1488円×1.25×20時間
=37,200円

残業代を簡単に知りたいという人は、まずはこの式に当てはめて計算してみましょう。

より正確な残業代を計算するには

さらに正確な残業代を知りたい場合には、「1時間あたりの賃金(時給)×割増率×残業時間」の計算式に、月給に含まれる諸手当や、残業の種類ごとに異なる割増率を加えて計算する必要があります。計算式は以下のとおり。

諸手当と割増率について、さらに詳しく説明していきます。

諸手当を除外して、より正確な時給を算出

1時間あたりの賃金をより厳密に計算するためには、月給から通勤手当や住宅手当を引いて計算する必要があります。給与明細を見れば自分がもらっている手当がわかりますので、確認して計算してみましょう。

 

引かれる手当は主な以下のとおり。

【割増賃金の計算の基礎から除外される諸手当・賃金】
・家族手当(扶養手当・子女教育手当)
・通勤手当
・別居手当(単身赴任手当)
・子女教育手当
・住宅手当
・臨時に支払われた賃金
・1ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与、精勤手当など)

ちなみに社会保険労務士の受験者などは、これらの頭文字をとって「かつべしじゅうりいち」と覚えるのが定番のようです。

残業の時間帯や休日によって、異なる割増率を掛ける

40時間、1日8時間を超えた「法定時間外労働」には基本的に25%の割増賃金が支払われますが、法定時間外労働の中でも割増率が異なるケースがあります。

たとえば定時の18時を過ぎても残業が続き、22時以降になった場合は、法定時間外労働の25%に深夜残業として25%が加算され、割増率は合計50%となります。

割増率の一覧は以下のとおり。「時間外労働+深夜労働」など異なる割増賃金を合算できるパターンもありますので、確実に計算しましょう。

【時間外残業の割増率一覧】

法定休日とは、労働基準法で定められ、「週1日」または「4週間を通じて4日以上」必ず与えられる休日です。必ずしも暦通りの土日や祝日が該当するわけではなく、企業によって定められた曜日やシフト等に従います。

土日休みではない仕事の人は、就業規則などを確認してみましょう。「週1日」または「4週間を通じて4日以上」の休日がもらえていない場合は、出勤日に割増の残業代が発生している可能性があります。

 

2. 正確な残業代の計算シミュレーション

ここまで説明してきたことを使って、諸手当や残業の種類ごとの割増率を踏まえた正確な残業代の計算をシミュレートしてみましょう。

Aさんは9~18時定時(休憩1時間)の会社で、月給28万2000円で働いています。上記の計算式を使って、ある1週間の残業代を算出してみましょう。

(1)まずは1時間あたりの賃金を算出

まずは1時あたりの賃金を計算してみましょう。Aさんの月給と手当は以下のとおりです。

【Aさんの月給と手当】
月給(手当含む):28万2000円
通勤手当:1万円
住宅手当:2万円

これを当てはめると、1時間あたりの賃金は下記のように計算できます。

(28万2000円-〈1万円+2万円〉)÷(8時間×21日)=1500円

Aさんの1時間あたりの賃金は、1500円ということがわかりました。

(2)残業の種類ごとに残業時間を整理

次に、残業の種類ごとに、Aさんの1週間の残業時間をまとめ、割増率を確認してみましょう。

<月~金曜日>
月~金曜日までは毎日9時間働いていますが、法定労働時間は8時間ですので、1日1時間オーバー×5日=「5時間」の法定時間外労働(残業)が発生しています。

<土曜日>
Aさんの会社では、土曜日は所定休日(法定休日以外の休日)です。1週間の労働時間が40時間を超えている場合、所定休日に働いた時間は法定時間外労働(残業)として扱われます

Aさんは月~金曜日までに40時間以上働いているので、土曜日の「12~22時」の労働時間である10時間は、すべて法定時間外労働(25%割増)の扱いとなります。

また、22~23時の1時間は「深夜労働」の扱いとなり、時間外労働の25%割増に深夜労働の25%を加算する必要があるので、50%割増となります。

<日曜日>
法定休日(労働基準法によって定められた休日)である日曜日には、9時間働いています。法定休日に働いた分は、すべて休日労動の割増賃金(35%割増)が発生します。

これらを整理すると、Aさんの残業時間は下記のようにまとめられます。

法定時間外労働(25%割増):15時間
法定時間外労働+深夜労動(50%割増):1時間
休日労動(35%割増):9時間

(3)1時間あたりの賃金と割増率、残業代を掛け合わせる

これでAさんの1時間あたりの賃金、さらに残業の種類ごとの割増率と残業時間がわかりました。これを式にあてはめて計算してみましょう。

 

法定時間外労働(25%割増)
1500円×1.25×15時間=28,125円

法定時間外労働+深夜労動(50%割増)
1500円×1.5×1時間=2,250円

休日労動(35%割増)
1,500円×1.35×9時間=18,225円

これらを合算して、残業代の合計を算出してみましょう。

28,125円+2,250円+18,225円=48,600円

Aさんの1週間のこの週の残業代は、48,600円だということがわかりました。

【コラム】残業代、残業時間の端数はどうなる?

残業代の計算をする際、端数(小数第一位以下)が生じた場合は、50銭未満の端数を切り捨て、50銭以上1円未満の端数は1円に切り上げて処理します。
参考:厚生労働省 東京労働局 「残業手当等の端数処理はどうしたらよいか

また、労働時間はたとえ1分であってもカウントされますが、企業の事務処理を簡単にするため、1ヶ月間の時間外労働の合計に30分未満の端数が出たら切り捨て、30分以上の端数は1時間に切り上げることができます。
ただし、これはあくまで1ヶ月間の総労働時間数に対する規定です。1日単位で、例えば2時間15分の残業を2時間で処理することは違法ですので、自分の残業代を確認する際は注意して見てみましょう。

 

3. ケース別 残業代の考え方と計算方法

カレンダーと時計

ここでは、さまざまな勤務体系で働いている人や役職者などの残業代について、考え方や計算方法を見ていきます。
どのケースでも「残業」と認められた労働に対しては、残業代は発生します。

裁量労働制(みなし労働時間制)

8時間以上のみなし労働時間と休日出勤に発生

裁量労働制とは、実際働いた時間に関係なく、事前に決めた時間働いたと「みなす」勤務体系です。「みなし労働時間制」とも言われます。

例えば、みなし労働時間を1日8時間とした場合には、労働時間が5時間の日も、10時間の日も、8時間労働したこととして扱われます。

みなし労働時間制であっても、1ヶ月の実働時間の合計がみなし労働時間を超えた場合は残業代が出ます。残業代は、「1時間あたりの賃金×みなし労働時間を超えて働いた時間×1.25(法定時間外労働の割増)」で計算できます。深夜労働や休日出勤などの規定も同様です。

また、企業がみなし労働時間を設定するためには、厳しいルールがあります。それらを満たしていない場合は、そもそもみなし労働時間制自体が成立していない可能性があるので、未払い残業代の請求を考えている人はチェックしてみましょう。

管理職

実質が伴わない「名ばかり管理職」は残業代発生の可能性あり

労働基準法では、管理監督者(管理職)には残業代や休日出勤手当を支払わなくていいことになっています。

しかし、労働基準法上の「管理監督者」としての権限が与えられていないにもかかわらず、管理職として扱われている「名ばかり管理職」の人は、本来であれば残業代をもらえます

「管理監督者」を判断するポイントは以下のとおり。

(1)経営方針の決定に参画している
(2)労働者の管理監督や指揮命令、採用等の権限を持つ
(3)出退勤について規制を受けず、勤務時間を自由に決められる
(4)職務の重要性に見合う十分な役職手当などが支給されている

管理職とされているにもかかわらず上記に該当していない人は、「名ばかり管理職」かもしれません。名ばかり管理職であると認められれば、一般職と同じように計算して割り出された残業代が支給されます。

管理監督者であっても「深夜手当」は計上できる

労働基準法上の管理監督者であったとしても、午後10時~翌午前5時までの深夜勤務については、割増賃金の25%を計上することができます

ただし、管理監督者は「残業」という概念がないので、時間外勤務(25%)や休日勤務(35%)の割増は計上できません

通常の深夜残業は、「時間外勤務の割増25%+深夜勤務の割増25%=50%」の割増率で計算しますが、管理職は「時間外勤務の割増」はもらえません。つまり、深夜残業でも、時間当たり賃金に「深夜勤務の割増25%」だけを乗じます

同様に、休日深夜勤務の場合も、一般職は「休日勤務の割増35%+深夜勤務の割増25%=60%」の割増率になりますが、管理監督者は「深夜勤務の割増25%」だけとなります。

日給制

月給制と同様に計算すればOK

日給制でも、所定労働時間を超えた労働時間については残業が発生します。その場合、1時間あたりの賃金は、契約時に決めた日給÷所定労働時間で計算します。

例えば、「日給:12,000円、1日の所定労働時間:6時間」という契約で、9時間労働をした場合、時給は12,000円÷6時間=2,000円、となります。

8時間までは法定内労働に当たるので、時間外であっても時給は2,000円ですが、8時間を超えた分は25%の割増賃金となります。以上を踏まえると、残業代は以下のように計算できます。

6~8時間までの2時間の労働分:2,000円×2時間=4,000円
8時間を超えた1時間の労働分:2,000円×1.25×1時間=2,500円
残業代合計:4,000円+2,500円=6,500円

残業代は6,500円となり、残業代も含めた日給は18,500円になります。

変形労働時間制/フレックスタイム制

基準時間を超えたら残業代が発生

変形労働時間制とは、労働時間の基準(定時)を1日単位ではなく、月単位・年単位で清算する制度です。1日何時間働いても、月・年単位で決めた時間内で収まっていれば、残業はしていないことになります。

土日出勤の多い仕事や、シフト制、曜日や時期ごとで繁忙期・閑散期のある業界や職種では、変形労働時間制が積極的に取り入れられています。

また、フレックスタイム制とは、定められた労働時間の中であれば、労働者自身が出社時間と退社時間を決めることのできる、変形時間労働制のうちのひとつです。

これらの制度において、労働時間の基準となる期間を「清算期間」と言います。一般的には、月単位で清算する企業が多いようです。

清算期間を1ヶ月とした場合も、1年とした場合も、「週の労働時間の平均が40時間を超えていないか」が、残業代発生の基準となります。この基準に則り、1ヶ月の所定労働時間の合計が以下の表の数値を超えたときに、残業代(25%割増)が発生します。

所定労働時間が以下の表の数値を超えると、残業代(超過時間×1.25)が発生します。

4. 便利に活用! 残業代が計算できるツール

サイト検索

最後に、自分の残業代がいくらなのかを計算できるツールを紹介します。用途に応じて使い分けてみましょう。

すぐに残業代を知りたい人はサイト上で簡易計算

とりあえず自分がもらっている残業代が正しいのか、また今月の残業でいくらもらえるのかの目安が知りたい人などは、簡易計算できるサイトを利用しましょう。

簡単に使える分、誤差が出てしまうことに注意してください。

Casio 「Keisan」 残業代の計算
法定時間外労働のほか、深夜労働、法定休日、月60時間超の割増の有無を入力することで、残業代の適正金額を計算できます。

細かく計算したい人は無料ソフトを使おう

より細かく残業代を計算したい人は、無料ソフトを使ってみましょう。細かい入力が必要で手間がかかる分、正確な残業代が計算できます。

残業代計算ソフト 「給与第一
京都第一法律事務所が開発したソフト(Excelシート)。そのまま訴訟資料としても利用できるほど細かく正確で、裁判所でも活用されています。

残業証明や計算が一手にできるスマホアプリ

残業時間の管理や残業代の自動計算ができる便利なスマートフォンのアプリもあります。未払いの残業代を請求したい場合の証拠集めにも便利です。

残業証明アプリ(iPhoneのみ対応)
弁護士の監修により開発されたアプリ。GPS機能により、職場にいて残業したことを2年分自動記録でき、支払われるべき残業代も自動計算してくれます。適切な残業代の目安が把握できるとともに、企業に残業代を請求する際の法的証明にも使用できます。

タイムカード(Androidのみ対応)
ボタンを押すだけで出勤/退勤を記録でき、記録をもとに残業代を計算してくれます。アプリを開かずにウィジェットで入力することも可能。法定外残業や深夜残業の割増時給も自動計算してくれます。

自力算出が不安な人は、相談窓口へ

計算ツールを使っても入力内容に不明点がある、自分で計算した残業代が合っているかわからないという人は、相談窓口で専門員に算出してもらう方法もあります。

まずは、厚生労働省が管轄する最寄りの労働基準監督署や、総合労働相談コーナーに足を運んでみましょう。

全国労働基準監督署の所在案内

総合労働相談コーナーのご案内

その際は、残業代を算出するために必要となる、以下の資料を持参しましょう。

・月々の給与明細書
・雇用時にもらった働条件を示した書類(雇入通知書、労働条件通知書など)
・就業規則、賃金規程、退職金規程などの社内規程類
・出退勤の記録(タイムカード、メモなど)

さらに詳しく必要な書類を知りたい人は、未払い残業代の請求方法 完全ガイド 4.残業代を請求するための証拠の残し方を参照ください。

 

5. まとめ

残業代の正しい計算方法を知り、自分の残業代を把握することはできましたか?

残業代にもさまざまな種類があり、難しいと思うかもしれませんが、残業時間と割増率がわかれば計算は単純です。

せっかく遅くまで残って働いたのであれば、その分残業代ももらいたいと思うのは当然です。万が一、算出された残業代を満額支給されていなかった場合は、自分の計算で合っているのか会社に問い合わせてみてもよいかもしれません。

 

 

 

 

未払い残業代の請求方法【完全ガイド】

毎日残業三昧の日々だけど、それに見合った給与が支給されていない気がするな、という人はいませんか? もしかしたら、企業から支払われるべき残業代が、きちんと支給されていないかもしれません。

未払い残業代は、退職するタイミングで請求を考える人が多いようです。在職中に請求すると会社とトラブルになり、結局退職することに……というケースもあるからです。

ここでは、残業代が発生する仕組みや、具体的な未払い残業代の請求方法、残業した証拠の残し方などを紹介していきます。

 

1.残業代を請求できるか確認しよう

そもそも残業が発生していなければ、残業代を請求することはできません。
まずは残業代発生の仕組みを定めている「労働基準法」に則って「残業」の定義を確認し、自分が働いている時間のどこからが「残業」なのかを確かめてみましょう。

まずは残業代が発生する条件を確認

疲れた様子のビジネスマン「定時以降に働いた時間はすべて残業で、残業代(割増賃金)が出る」と考えている人もいるかもしれませんが、実際はもう少し複雑です。残業にも種類があり、残業代が出るかどうかにも違いがあるからです。

法律では、労働時間について以下のように定められています。

【労働基準法第32条】

1.使用者は、労働者に、休憩時間を除き1週間について40時間を超えて、労働させてはならない。

2.使用者は、1週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き1日について8時間を超えて、労働させてはならない。

この規定により、残業は「法定時間外残業」と「法定時間内残業」の2種類に分かれます。残業代にも違いがあります。

法定時間外残業
「1日に8時間、1週間に40時間」を超えた残業。企業は「割増賃金」(25%)の支払い義務あり。
法定時間内残業
「1日に8時間、1週間に40時間」の範囲内ではあるものの、企業が定めた所定労働時間を超えて行われた残業。つまり、所定労働時間が1日8時間以上、週40時間以上の会社では発生しない。
法律上、割増賃金の支払い義務はない。企業ごとの規則で残業代が決まる。

残業代の計算方法はそれぞれ異なりますが、どちらの残業代が支払われていなかった場合も、企業に請求することができます。

残業代の基準設定は「労働基準法」の効力が最強

残業にまつわるルールでは、国が定めた法律である「労働基準法」が第一に守られなくてはなりません。
つまり、企業が勝手に「うちはいくら残業しても残業代はでないから」とルールを定めていても、そのルールが労働基準法に違反していれば残業代は請求できます

企業は、「労働条件通知書」や「就業規則」などで労働基準法に違反したルールを独自に定め、社員を違法な条件で労動させていることがあります。
労働条件通知書や就業規則で定めたルールは、労働基準法の規定に満たなければ無効です。それぞれのルールの効力の強さは以下のとおりです。

請求の時効は2年! 早めに動こう

未払い残業代の請求には「2年」という時効があります。
この「2年」は、「残業代が支払われるはずだった給料日から2年」という意味です。
例えば、2016年11月24日に残業代請求のアクションを行う場合、2014年11月25日に支給されるべきであった残業代まで請求できるというわけです。それより前の分については、時効のため請求権が消滅しています。

<未払い残業代 請求権時効早見表(2016年11月24日に請求する場合)>

せっかく残業代を請求するなら、できるだけ多くもらいたいもの。退職後に請求するケースではとくに、できるだけ早めに動くのがベターです。
具体的な請求方法について、詳しくは3.残業代を請求する手順と注意点で説明します。

時効は内容証明送付で半年延長、裁判を起こせばリセットされる

残業代請求の2年の時効は延長、または中断させることができます。
2年に当たる日の前日までに、企業に「残業代を請求する」アクションを起こせば、その日から6か月間は時効が中断します。
代表的なアクションは、「内容証明」を送ること。例えば、2016年11月24日(時効を迎える2016年11月25日の前日)中までに、内容証明を郵送し、請求(催告)を相手方に到達させれば、到達後6ヵ月間は時効が中断(停止)します。

また、労働審判や訴訟などの裁判手続を申し立てた際には、措置を取った日から時効が中断され、措置日から2年のカウントが再スタートされます。

企業の不法行為があれば時効が3年に延びることも

稀なケースですが、残業代を未払いにした経緯に企業側の「不法行為」が考えられえると、残業代請求の時効が2年から3年に延びるケースがあります。不法行為があると、残業代(賃金)として請求するのではなく、「損害賠償」として請求することになり、時効が3年に延長されます。

過去の裁判例では、「杉本商事事件」が、残業代の請求権が3年間と認められた例として有名です。判例の詳細を要約すると、ここで言う不法行為とは以下のとおり。

・会社が残業の発生を認識していながら残業代を支払っていない
・残業時間を含めた勤務時間が管理されていない

未払い残業代の問題で同様の不法行為が絡むケースは多いでしょう。ただし、残念ながら実際、残業代請求で3年間と認められた例は少ないのが現状です。

2. これって請求可能? ケース別請求可否まとめ

会社員自分が正しく残業代を支払われていないと感じている人の中には、裁量労働制や年俸制で働いていて、最初から残業代請求を諦めている人もいるかもしれません。
しかし、実は残業代が支払われるべきケースも少なくありません。それぞれのケースで未払い残業代を請求できるか否かについてまとめました。

具体的な残業代の計算方法については、「正しい残業代の計算方法【すぐわかる図解つき】」を参照ください。

(1)みなし労働時間制/裁量労働制

みなし労働時間を越えた分は請求できる
みなし労働時間制では、労働者に働く時間をある程度コントロールする権限を与え、実際働いた時間に関係なく、事前に決めた時間だけ働いたと「みなす」勤務体系です。外勤営業やエンジニア、デザイナーなどの職種で多く使われています。
みなし労働時間を1日8時間とした場合には、実際の労働時間が10時間であっても、5時間であっても、8時間分の給与が支給されます。

一方、決められたみなし労働時間を超えた分は、本来であれば残業代を請求できます。「残業はすべてみなし労動時間に含まれているから」と休日出勤や休憩時間分の残業代を諦める必要はありません。

また、みなし労働時間制を正しく運用できていない企業も多いのが現状です。下記のルールが守られずにみなし労働時間が設定されている場合は、みなし労働時間制そのものが無効となり、法定時間外残業(1日8時間、週40時間を越えた分の残業代)を請求できる可能性があります。

【みなし労働時間を、法定労働時間を越えて設定する場合のルール】
・36協定(※)を労使間で締結している
・企業がそれを労働基準監督署に提出している
・時給が最低賃金(東京都は932円)を下回っていない
(※)36協定…1日8時間、週40時間より多く働く場合に労使で締結する協定。

弁護士など専門家に相談することで、自社のみなし労働時間制の無効が明らかになれば、さらに多く残業代を請求できるかもしれません。

(2)固定残業代

規定時間をオーバーする残業代は請求できる
固定残業代は、「基本給○○万円、うち固定残業代として△時間分の残業代○万円を含む」といった給与形態のこと。よく、みなし労働時間制と混同されがちですが、本来は別の制度です。
給料に固定残業代が含まれている場合でも、あらかじめ決められた時間以上に働いた場合はその分の残業代を請求できます

例えば、就業規則で「1ヶ月あたり20時間分の残業をしたものとして、固定残業代3万円を支給する」と定められている場合、1ヶ月の残業時間が20時間に満たなくても、固定残業代3万円を支給されます。
一方、残業時間が20時間を超えた場合は、固定残業代にプラスして20時間を超えて労働した時間分についても残業代を受け取ることができます

また、固定残業代自体が無効になるケースもあります。
「基本給○○万円、固定残業代○万円を含む」など、以下のポイントが明確に定められていない就業規則は無効となります。

【企業が固定残業代を定める際のルール】
・定額残業代部分が、それ以外の賃金と明確に区分されている
・何時間分の残業代が含まれているのかが明確に定められている

(3)年俸制

契約の残業時間を超えた分の残業代は請求できる
年俸制では、あらかじめ年俸に残業代が含まれた契約になっていることが多いです。(1)の裁量労働制(みなし労働時間制)に近い制度と言えます。
例えば契約内容には、「年俸には1ヶ月◯◯時間、◯万円分の残業代を含める」というように書かれています。

この場合、○○時間以内の残業代は既に年俸に入っていることになりますが、○○時間以上の残業が発生すれば、追加の残業代を請求することができます。年俸制の会社では残業代のことを考えずにバリバリ働く人も多いかもしれませんが、実は請求できるということを知っておきましょう。

(4)管理職/名ばかり管理職

実態が伴わない管理職なら残業代は請求可能
労働基準法では、「管理監督者(管理職)には割増賃金を支払わなくて良い」と定められていますが、実態が伴わない「名ばかり管理職」の場合は残業代の請求が可能です。

ここでいう管理職とは、「経営者と同等の立場にいて、出退勤時間の決まりがなく、一般社員との給与に差がある」といったポジションに位置する人のこと。
一方、「名ばかり管理職」は、経営者と同等のポジションにいるわけでもなく、出退勤時間の制限もあり、年収も数百万円程度で一般社員と変わりません。しかし、「管理職」という肩書がつくために残業代は支払われません。

名ばかり管理職であると認められるためには、上記のような働き方を強いられている証拠を示す必要があります。
他の社員と同様に出退勤時間の制限がある、役職手当が労働時間に見合っていない(普通に残業代を支給されたほうが手取りが高い)、といった事実を証明できれば、残業代を取り戻せる可能性はあるでしょう。

(5)派遣社員

派遣社員でも残業代が出るので、未払いの場合は請求できる
派遣社員も労働基準法の適用対象ですので、未払い残業代は請求できます

万が一、派遣先の会社がサービス残業を強要してきた場合は、派遣元の担当者に相談しましょう。
ただし、休日出勤の扱いなどは、派遣会社によって時給や割増率の規定が異なる場合がありますので、登録している派遣会社の基準について、派遣元に確認を取るとよいでしょう。

(6)退職後

2年の時効以内であれば請求可能
会社を退職した後でも残業代請求することができます。ただし、残業代請求の時効である給料日から2年以上を遡って請求することはできないので注意しましょう。

なお、退職した場合、労働者は退職した日の翌日から原則として年14.6パーセントの遅延損害金を事業主に請求することができます(賃金の支払の確保等に関する法律第6条1項より)。

参考:厚生労働省 東京労働局 未払い賃金とは

3.残業代を請求する手順と注意点

ここまでで、自分の未払いの残業代を請求できるかは確認できたでしょうか?
次は、実際に企業から未払い残業代を支払ってもらうためのプロセスや注意点について、まとめていきたいと思います。

請求前の準備は「残業した証拠」の収集から

未払い残業代を請求するためにもっとも重要なのは、残業をした証拠をできるだけ集めることです

タイムカードなどの他、タイムカードがない企業でも、業務日報やパソコンのログイン・ログアウト記録など残業をした証拠を残す手段はたくさんあります。
※詳しく→4.残業代を請求するための証拠の残し方

また、残業代請求の手続きは自分でもできますが、専門家を頼る場合はこの時点から相談しておくとスムーズです。

労働基準監督署に相談し、正確な残業代を把握

未払い残業代があるという証拠が揃ったら、それらを持参して労働基準監督署へ相談に行ってみましょう。

厚生労働省 全国労働基準監督署の所在案内

個人で労働基準監督署に相談に行く場合は、特に費用はかかりません。
また、残業代の計算方法などに関する知識がなくても、労働基準監督官は労働基準法の専門家ですので、給与明細やタイムカード等の資料を基に、正確な残業代を計算してくれます

残業代請求の流れは「話し合い」→「内容証明」→「労働審判」→「労働訴訟」

(1)まずは企業と話し合いで交渉

請求できる残業代の金額が出たら、それらの証拠(給与明細、タイムカード、労働基準監督署で計算してもらった残業代など)を提示し、残業代を支払ってもらうよう、会社側と話し合いましょう

コンプライアンスを重視している会社であれば、おそらくこの話し合いの段階で、未払いの残業代を支払ってくれるはずです。
しかし、いわゆる「ブラック企業」的な体質の企業の場合、話し合いすらまともに応じてくれないこともあるでしょう。

その場合は、次の(2)の内容証明郵便でアプローチしてみましょう。

(2)企業に内容証明を提出

企業が任意の交渉に応じてくれないようであれば、「内容証明郵便」を送ります
中小企業など、あまり法律に詳しくない企業の場合には、内容証明郵便が公的な書面の体裁を備えていることから、焦って残業代を支払ってくれる可能性があります。

ただし、内容証明郵便をもらい慣れてしまっている会社などは、内容証明に法的拘束力がないことを知っているため、対応してもらえない可能性もあります。その場合でも、内容証明郵便を送ることで「残業代の時効(2年)の進行を止める」ことはできます。

また、今後、(3)の「労働審判」や、(4)の「労働訴訟」といった段階へコマを進める際に、「以前に内容証明を送ったが、企業からのレスポンスがなかった」という事実が有効に働く可能性も高まります。

内容証明郵便とは
内容証明とは、「いつ、いかなる内容の文書を誰から誰あてに差し出されたかということを、差出人が作成した謄本によって郵便局が証明する制度」です。参照:郵便局 内容証明とは未払い残業代請求時の内容証明には、以下の内容を明記します。
(1)タイトル(「請求書」など)・日付
(2)会社との契約関係(入社日、所属課、氏名など)
(3)労務の提供、残業代の未払い(○時間残業したのに、△円の残業代が未払いだということ)
(4)支払期限(「本書面到達後○日以内」という書き方が一般的)
(5)請求金額(未払い残業代に加えて、遅延損害金なども記載)
(6)支払方法(金融機関の口座番号など)
(7)支払われなかった場合どうするか(「労働基準監督署への申告を含むしかるべき法的措置を講ずる予定である」など)
(8)通知人・被通知人の住所・企業名(被通知人のみ)・氏名なお、時間外労働の集計に使った表や、タイムカードなどの証拠書類は、内容証明郵便に同封する必要はありません。というのも、内容証明には本体の文書以外に何かを同封することができないので、どうしても送りたい場合は、別送しましょう。

内容証明は、自分で作成することも可能ですが、社会保険労務士や行政書士に頼むこともできます。

(3)労働審判手続きを行う

次の手段は「労働審判」です。
労働審判とは、解雇や給料の不払いなど、事業主と個々の労働者との間の労働関係に関するトラブルを解決するための手続きです。基本的には話し合いでの解決を目指し、話がまとまらなければ労働審判によって解決案の提示が行われます。

手続きは裁判所で行われます。期日は3回以内とされており、労働訴訟に比べて早期解決が期待できるというメリットがある反面、付加金(未払い残業代を請求する場合に請求額が2倍になる制度)の支払い命令が出ないというデメリットもあります(労働訴訟なら可能)。

また、労働審判は、裁判所の判断であるため、確定すれば判決と同一の効力があり、差し押さえをする(強制的に預金など企業の財産を没収し、そこから残業代を支払わせる)ことも可能です。

しかし、審判の結果にどちらかが納得いかなかった場合に、審判に対する当事者から異議の申立てがあれば、労働審判はその効力を失い、最終手段となる「労働訴訟」に移行します。

(4)労働訴訟を起こす

労働審判をしても解決できなかった場合には、裁判所に民事訴訟を提起して残業代を回収することになります。

訴訟は、(1)~(3)の手続きを踏んでも解決しなかった場合の「最終手段」。訴訟で決着がつけば、法的な最終解決がはかれます。一方、弁護士などに依頼するなどの費用負担が大きく、非常に時間もかかります。こういったデメリットも考えておく必要があるでしょう。

確実に請求するなら、弁護士など専門家に相談するのがベスト

専門家に相談上記の(1)から(4)は、個人でやろうと思えば、実はできます。労働訴訟(民事訴訟)も「本人訴訟」という形で、弁護士等を立てずに訴訟を起こすことも可能です。

しかし、時間や心身にかかる負担を考えれば、早い段階で専門家に相談するほうがベター。
専門家に委ねれば、回収に至るまでの見通しが立てやすくなる上、難しい法律を理解する手間も省け、自分一人で戦う心理的負担も軽減されます。

ただし、専門家に依頼するには料金が発生するので、回収できる残業代がいくらになるのかとバランスを取りながら判断するのがよいでしょう。

士業別・できること&できないこと

未払い残業代の請求において力を借りられる士業には、「弁護士」「司法書士」「社会保険労務士」「行政書士」が挙げられますが、それぞれできることや得意分野が異なります。
専門家に依頼する場合は、どこまで自分でやってどこから専門家に頼むか、また料金と回収できる残業代の兼ね合いを考えて依頼先を決めましょう。

<士業別・業務代行可否一覧表>

弁護士

報酬は高いがすべてを任せられる
弁護士に頼めば、先の(1)から(4)のすべての作業を代行してくれます。
成功報酬は回収額の20~30%というところが多く、4つの士業の中ではもっとも高額です。多少高額になってもすべて任せたいという忙しい人や、自分で交渉ごとを行う自信がない人に向いています。

司法書士

請求金額が140万円以下なら安価で頼める
司法書士には、簡易裁判所の訴訟代理権しか認められていないため、地方裁判所での訴訟や労働審判(労働審判は地方裁判所でしか行われない)などで代理人となることができません。この場合、裁判所への提出書類を作成や、裁判手続きの流れなどを伝えて本人訴訟をサポートする役割に限られます。

認定司法書士であれば、請求金額が140万円以下の簡易裁判所内では、弁護士と同様に訴訟代理人として残業代請求の手続きを行うことができます

そして、弁護士に比べて報酬が安価であるというメリットもあります。一般的な成功報酬は10%程度のところが多いようです。
「できれば安く済ませたい」「本人訴訟をしたいけれど専門知識がない」、「裁判に同席して一部始終を知りたい」、「残業代が140万円未満」の場合は、司法書士に依頼すると良いでしょう。

社会保険労務士

内容証明の作成や、ADR機関における示談を任せられる
社会保険労務士は、主に中小企業と顧問契約を結び、企業の労働・社会保険の手続きや労務管理に係る業務を中心に行っています。
残業代請求においては、内容証明の作成を依頼できます。弁護士や司法書士のように、依頼者の代理人として裁判へ出ることはできません。

また、特定社会保険労務士であれば、都道府県労働局の紛争調整委員会やADR(※)機関で企業と話し合う際(〈1〉まずは企業と話し合いで交渉)、代理人として交渉を行ってもらえます。これを「あっせん」と言います。

(※)ADR・・・「裁判外紛争解決手続」のこと。裁判に依らず、当事者双方の話し合いに基づき、紛争(労働問題)の解決を図ろうとするもの。残業代の請求も交渉対象となる。

参照:全国社会保険労務士会連合会「あっせんによる労働問題解決事例

ADRによる交渉は、裁判よりも簡単な手続きで行える反面、参加に強制力がないことや、開催回数が1~3回と少なめであることから、企業側に話し合いの意思がないと解決が難しい場合も。

「まずは自分の要求の妥当性を確認したい」という人は、労働相談という形で、社会保険労務士を訪ねるということもできます。
相談料は数千円~、企業との話し合い同行、付き添いは1万円程度~、が相場のようです。

行政書士

内容証明の作成を依頼できる
行政書士は、役所に提出する許認可などの申請書類の作成、および役所への提出代理、事実証明や契約書の作成などを行います。
残業代請求においては内容証明の作成を依頼することができます。しかし弁護士や司法書士のように依頼者の代理人として裁判へ出ることはできません。
内容証明の作成相場は、約1万円です。

4.残業代を請求するための証拠の残し方

タイムカード最後に、未払い残業代回収のための必須アイテムとなる、「残業をした証拠」の集め方、記録方法についてまとめていきます。

タイムカードはコピーでも可 サインがあれば尚よし

もっとも好ましい資料は、タイムカードです。
タイムカードはもっとも正確に在社時間を示す資料となりますので、残業代請求の回収率もグンと上がります。
上司の確認印等が押印されていれば、なお効力があります。コピーでも構いません。

ただし、不必要な早出や残業は労働時間として認められませんので、タイムカードの出勤時刻から退勤時刻まで、1分も違わず残業代を請求できるわけではない点は留意しておきましょう。

出勤簿や業務日報に出退勤時刻を記録する

そもそもタイムカードがない、もっとひどいところでは、タイムカードを定時に打刻させた上で残業をさせるようなブラック企業もあるようです。

その場合は、出勤簿や業務日報、残業申出書などに出退勤時刻を記入しておけば、ある程度客観的な資料として扱われるでしょう。

パソコンのログイン&ログアウト記録をとる

会社のパソコンを使って仕事をしているのであれば、パソコンのログイン・ログアウト時刻も労働時間の証明材料となり得ます
パソコンのログは、IT担当の部署などに頼めばすぐに記録が分かります。
ログイン・ログアウトの時間とともに、閲覧したサイトなどもすべて明らかになりますので、万が一息抜きでネットサーフィンなどをしている場合もバレてしまいますので、その点の心づもりはしておきましょう!

メールやメモも重要な証拠に

タイムカードも出勤簿もない、パソコンもあまり使用しない、全く労働時間を管理していない、という会社で働いている人は、以下のような方法も、100%とまではいきませんが、ある程度の証拠として認められます。

・毎日の出退勤時刻を手帳に記録する
・個人的に日記を書く(出社時間、退社時間が分かるような内容で)
・遅い時間に受電/架電した履歴やメモを残しておく
・遅い時間に会社からFAXを送信した履歴を残しておく
・遅い時間に会社のパソコンからメールを送信する
・退勤時に会社内の時計を携帯電話で撮影しておく

裁判例でも、手帳を証拠にした労働者の残業代請求が、5~6割程度認められたという事例があります。

1点気をつけたいのは、手帳のメモは、働いていた当時にその都度行うことが重要です。
後でまとめ書きすると、どうしても不正確な記載になってしまい、会社側から反論され、証拠としての能力が低くなってしまう恐れがあるからです。

5.まとめ

はたらけど はたらけど猶 わが生活 楽にならざり…ぢっと手を見るその前に、未払いの残業代は後から請求できるということがお分かりいただけたかと思います。

証拠の収集から万が一訴訟に至るとなれば、道のりは長く険しいかもしれません。しかし、頑張って働いた残業代を回収するのは、労働者として当然の権利です。

在職中に請求する場合には、トラブルとなって辞めざるをえなくなる可能性もあるので慎重に。また、退職後に請求する場合は時効に気を付けながら、「働いたのに残業代もらえない」という状況を打破してみてはいかがでしょうか。

 

 

 

 

あなたは何時間? 残業時間の平均と残業事情【2016年版】

 

「今日も残業。もっと早く帰って、自分の時間が持てたらなぁ」……仕事をしていれば、誰しもがそんな思いに駆られることがあるでしょう。

自分の残業時間が他の人たちと比べて長いのか、それともみんなもっと忙しい中で頑張っているのか、気になることはありませんか?

この記事では、世の中の平均的な残業時間を大公開。さらに業界や年齢による動向、残業にまつわるトラブル対処法など、現代日本の残業事情にまつわる情報も紹介します。

 

1.平均残業時間の最新事情

まずは、世の中の平均的な残業時間を把握するとともに、業界・年齢・年収の違いによる残業時間の差異などについて、見ていきましょう。

残業時間 厚労省の調査は「10.2時間」、口コミサイトでは「47時間」!?

目を押さえる男性

厚生労働省が毎月発表している「毎月勤労統計調査」の最新データを見ると、事業所規模5人以上の企業における「所定外労働時間」は、月間「10.2時間」となっています。

一方、社員による会社評価、約6万8千人の会社員による口コミ情報を掲載しているサイトVORKERSのレポートによると、月間の平均残業時間は「47時間」となっています。

この差の原因は、政府調査は「雇用主」、口コミサイトは「労働者」と、調査対象が異なる点にあります

口コミサイトの情報は、わざわざ書き込む人=会社に不満を抱いている人、であることが多いため、口コミが書かれる会社に偏りが出がち。ゆえに、すべてを鵜呑みにするのは危険です。

また、厚労省の調査でこれだけ低い数値が出ているということは、サービス残業など雇用主には見えない部分での残業時間を拾えていなかったり、企業が残業時間を隠ぺいしている可能性も推測されます。

あなたの残業時間に近いのは、どちらでしょうか?

※出典:厚生労働省 毎月勤労統計調査 平成28年8月分結果速報 第2表 月間実労働時間及び出勤日数
(所定外労働時間=早出、残業、臨時の呼出、休日出勤等の実労働時間数)
※出典:VORKERS 約6万8000件の社員口コミから分析した‘残業時間’に関するレポート

業種別では「コンサルティング・シンクタンク」が最長

前述のVORKERアンケート調査より、残業時間の平均を業界別で見ると、「コンサルティング、シンクタンク」が月間83.5時間ともっとも長いことが分かります。次いで、「広告代理店、PR、SP(セールスプロモーション)、デザイン」(78.6時間)、「建築、土木、設計、設備工事」(70.8時間)において、残業時間が長いという結果が出ています。

また、職種別に見ても、残業時間の長い上位3職種は「戦略コンサルタント」(86.29時間)、「マーケティングコンサルタント」(85時間)、「CIO、CTO」(80時間)となっており、業界ランキングと連動していることが分かります。

これらの仕事は、給料が高いことでも知られています。次は給料と残業時間の関係を見てみましょう。

「35歳~39歳の年収2000万円~3000万円の人」がもっとも忙しい

スマートフォンを持つ男性今度は、同アンケートより、年収別の残業時間をさらに年齢層に区切った集計を見てみると、もっとも残業時間が長い層は「35歳~39歳」の「年収2000万円~3000万円」のビジネスパーソンであることが見て取れます。

「まだまだ体力のある30代後半で、これまで培ってきた仕事の実力を活かしながらバリバリ働く、年収の高い人たち」がもっとも多忙であることは、想像に難くないでしょう。

残業時間が少ない企業ランキング

では、実際に残業時間が少ない企業とは、どのような企業なのでしょうか?

東洋経済ONLINEが2016年4月に発表した「2014年度残業時間が少なかった会社」ランキングによると、同率1位は「日本テクノ・ラボ」「アイサンテクノロジー」「トライアイズ」「ムラキ」の4社。いずれも月間平均残業がゼロ!という、驚きの結果が出ています。

※出典:東洋経済ONLINE 公開!これが「残業が少ない」トップ500社だ(2016年4月20日)

ただし、残業時間が少ないからこそ、アンケートに回答している企業が集まっている可能性もある点に留意しつつ、ランキングを解釈する必要はありそうです。

残業が少ない会社の“共通点”はなかなか見あたらず、業種・業態もバラバラです。

ひとつ言えることは、平均年収が1000万円以上の高給企業は少ないということ。

上位500社の中では、月間平均残業が13時間00分で315位の住友商事(1300万円)と、同15時間42分で441位の第一三共(1111万円)だけでした。

残業が少ないと、その分の残業代を稼ぎにくいことが影響しているのかもしれません。

【コラム】日本人は本当に働き過ぎ? 世界の残業事情

「Karoshi(過労死)」という日本語が海外でもそのまま使われているように、日本人はワーカホリック(仕事中毒)というイメージが世界でも根付いていると言われていますが、実は日本の労働時間は世界の各国と比較するとほぼ平均くらいです。

経済協力開発機構(OECD)が発表した、加盟国など世界38か国と地域を対象とした平均年間労働時間のランキング(2015年)を見ると、世界の平均は、1766時間。

そして日本の平均年間労働時間は、それを少し上回る1719時間、世界ランキングでは22位と、飛び抜けて高い順位ではありません。
※参照:経済協力開発機構(OECD) 実質労働時間ランキング(2015年)

上位3か国は以下の通りです。

1位 メキシコ 2246時間
2位 コスタリカ 2230時間
3位 韓国 2163時間

この結果には各国違った事情があります。たとえば1位のメキシコでは賃金をもらって働ける機会が少なく、家事手伝いなど無給の労働も「労働時間」として反映されていることや、3位の韓国では平均年収が日本円で13万円未満と低いため共働き家庭が多いことなどが挙げられます。

ではなぜ、日本人に「働き過ぎ」というイメージがあるのでしょうか?

たとえばアメリカの平均年間労働時間は1790時間で、世界15位。

日本よりも多いですが、アメリカ人は、長時間働くことを決して良いことだとは思っていません。アメリカでは、長時間労働をする人は、事務処理が遅い、効率が悪い、意志決定が遅いなど「仕事のできない人」と見なされます。

一方、日本では、長時間労働が「努力や忠誠心の表れ」と捉えられ、ともすれば会社から「よく頑張っているな」と評価されてしまうような風潮があります。

こうした日本人特有の労働観が、日本=働き過ぎ、というイメージを助長しているのかもしれません。

2.労働基準法が定める残業の規則を知ろう

この項では、法律で定められた残業に関する規則について、最低限抑えておきたい情報を紹介していきます。

実際の時間外労働や長時間労働におけるトラブルの対処法については、3.これってアリ!? 残業にまつわるトラブル対処法を参照ください。

残業時間を取り決める「36協定」の効力と実態

36協定「36(さぶろく)協定」とは、労働基準法36条に基づき、時間外労働や休日勤務等について、労使間で締結する協定書のことです。

労働基準法36条では、会社は法定労働時間(1日8時間、週40時間)を超える時間外労働及び休日勤務などを命じる場合、労働組合などと書面による協定(36協定)を結び、労働基準監督署に届け出る義務および、協定を結んだ旨を従業員に知らせる義務があります。

これらを違反したり、届け出を怠った企業には罰則があります。
※出典:厚生労働省 時間外労働の限度に関する基準

このように、本来、残業をするということは、労働者と雇用者の取り決めがあるほど、大変なことなのです。

ところが、平成25年10月に厚生労働省労働基準局が発表した調査によると、中小企業の56.6%が36協定を締結しておらず、そのうちの半数以上が「時間外労働や休日出勤があるにも関わらず36協定を締結していない」=「違法残業を課している」ということが判明しました。
※出典:厚生労働省 「平成25年労働時間等総合実態調査結果」

企業が36協定を遵守していない、また、従業員も協定の存在を知らずに、当然のごとく残業をしてしまっているケースが多いのが現状と言えます。

専門業務型裁量労働制とは?

研究職やITエンジニア、クリエイティブ職など、業務の性質上、仕事を行う手段や時間配分などを労働者自身で決めたほうが進めやすい仕事があります。

専門業務型裁量労働制は、そういった仕事において、会社が労働時間をきっちり決めない代わり、あらかじめ労使間で定めた時間を働いたものとみなす制度です。

【対象業務】
国により定められた19業務に限り、事業場の過半数労働組合又は過半数代表者との労使協定を締結することにより、導入することができます。

19種の業務については、下記のホームページを参照ください。
※出典:厚生労働省労働基準局監督課 専門業務型裁量労働制

この制度では、成果物が評価対象となるため、出退勤時間の制限がなくなります。

労働者にとっては、自分の都合の良い時間で働けるメリットがある反面、長時間労働を引き起こす要因ともなり、労使間でトラブルが発生しがちです。

3.これってアリ!? 残業にまつわるトラブル対処法

最後に、残業時間に関する、よくあるトラブルへの対処法についてまとめていきたいと思います。

「みなし残業」のルールを把握しよう

みなし残業みなし残業とは、実際の残業の有無に関わらず、あらかじめ給与の中に一定時間分の残業代が含まれて支払われる制度のことです。

「みなし残業」が適用される業務は、「事業場外労働」と「裁量労働」の2つに分けられます。

「事業場外労働」は、営業など事業所の外で働く仕事に適用される働き方。

「裁量労働」は、エンジニアやデザイナーなど専門職に多く用いられ、仕事の時間配分を労働者側の裁量に委ねられる働き方で、3章で触れた「専門業務型裁量労働制」は、こちらに当てはまります。

双方とも、実際の労働時間を把握することが難しいという共通点があり、一定の労働時間を働いたものと“みなし”て、賃金が支払われます

実働時間の割に給与が低いと感じたら確認すべきこと

みなし残業制度の給与体系で働いているものの、労働時間に対して給与が低いと感じたら、以下の2点を確認しましょう。

(1)決められたみなし残業時間の超過分は支払われているか

(2)みなし残業代込みの賃金が労働基準法で指定されている最低賃金を下回っていないか

まず(1)について、例えば、「月給21万円 ※上記金額には30時間分のみなし残業代を含む」という給与契約であれば、残業が30時間を超えた分の残業代を請求することができます。

(2)については、例えば、みなし残業制を採用し、みなし残業を30時間と設定したとします。

東京都の最低賃金は932円(2016年10月現在)、労働基準法に定められている1ヶ月の所定労働日数は23日、1日の所定労働時間は8時間ですので、計算すると、

A.基本給   :932円×8時間×23日=171,488円
B.みなし残業代:932円×1.25(※)×30時間=34,950円
(※)時間外手当は時間給の1.25倍と定められているため

AとBの合計は、206,438円となり、これが最低賃金の額です。
この額を下回っている場合は、労働基準監督署に未払い分を通報することができます。

「サービス残業」から抜け出す方法

サービス残業サービス残業とは、残業をしているにもかかわらず、法的に支払われるべき残業代が支払われない残業のことを言います。

世の中には、タイムカードは定時で打刻させ、その後に残業を強制したり、実働時間よりも過少に申告させる会社が存在します。

もし、そういった会社で働いているのであれば、労働審判や訴訟を起こすことができます。

労働のトラブルでお困りなら 法テラス

まずはここに電話するか、最寄りの法テラスを訪ね、相談しましょう。内容に応じて、法制度や相談機関・団体等を紹介してもらえます。また、実際に訴えを起こす場合は、長時間労働をしている事実を証明するものが必要となります。

自分でできることとしては、タイムカードや過少申告した書類のほかに、パソコンのログアウト記録を取っておきます。

加えて、実労働時間、実際の労働の内容などを記載したメモを残しておくとよいでしょう。パソコンのログアウト記録と毎日の労働時間や労働内容のメモとが一致すれば、残業をしていたことが認定される可能は高まります。

確実に証明できるものとまでは断言できませんが、何もしないよりははるかに有効といえるでしょう。

求人広告から見抜く「残業時間」と「残業代」

入社してから「こんなはずじゃなかった!」とならないよう、求人広告やサイトから残業時間の過多や残業代の支給方法を的確に見抜けるようにしましょう。

―「残業月○○時間以内」で絞り込めるサイトあり!

まず、残業時間については、求人情報に「残業月平均○○時間程度」などと明記されていることがあるので、よく読んで確認しましょう。

また、こだわり検索などで残業が少なめの会社を絞り込める求人サイトもあります。「残業月○○時間以内」で絞り込み検索できるサイトをいくつか紹介します。

マイナビ転職(特徴>仕事の特徴>残業月30時間以内)

@type(こだわり条件から探す>残業月30時間以下)

DODA(さらに詳しい条件で探す方はこちら>絞り込み条件>勤務形態:残業20時間以下)

ただし、求人情報に書いてあることはあくまでも企業側からの発信なので、サービス残業の有無等までは判断できません。口コミサイトの情報を参考にしたり、実際にその会社で働いている人を探して話を聞くのが確実でしょう。

―「みなし残業制」「年俸制」導入の企業の求人例と注意点

「みなし残業制」が導入されているかどうかは、求人情報の給与欄や、残業手当については福利厚生欄などに記載されていることが多くあります。

<給与欄に書かれている場合の記載例>
月給20万円~30万円 ※上記には月40時間分のみなし残業手当が含まれています。
月給21万円 ※上記金額には30時間分のみなし残業代を含みます。

<福利厚生欄に書かれている場合の記載例>
時間外手当(40時間を超えた場合に支給)
残業手当(みなし残業時間を越えた場合のみ支給)
残業手当(みなし残業40時間有り)

また、給与欄に「年俸制」と記載された求人を見かけることも多いでしょう。

年俸制は、1年に支払われる給料の総額を決め、それを12等分して毎月の月給とする給与体系です(16等分してボーナス時に上乗せする場合もあり)。

年俸制を取り入れている企業の残業代の扱い方や具体的な金額算出方法は、企業によって異なります。気になる場合は、面接の際に企業に確認しましょう。

<年俸制導入企業の残業代の記載例>
「年俸には1月あたり○○時間分の時間外労働手当を含む」
「年俸には年あたり○日分の休日出勤手当を含む」
「年俸には1月あたり○万円分の時間外労働、休日出勤手当を含む」

【コラム】自ら残業を減らす工夫をすることも大切

残業時間の多さがあまりにも多すぎる業務量から来ている場合は、一度会社と話し合う必要がありそうです。しかし残業時間が長いのは当たり前と諦めている人、諦めて何となくダラダラと残ってしまっている人も、実は多いのではないでしょうか。

そんな場合は、少しの意識改革や工夫を行うことで、残業時間は減らせる可能性があります。

「定時で帰る!」という目標を持ち、効率良く仕事を進める習慣をつけるのです。業務効率化の一例を紹介します。

<定期的な業務の棚卸と選別>
不要な会議、打ち合わせの削減など、業務のムダを徹底的に追究する。

<空き時間にできることを探す>
外出先でのちょっとした空き時間や営業先への移動時間などに、メールチェックなどを済ませる。

<働き方を工夫する>
朝、少し早く出社し、1日の業務を整理してから仕事に取りかかる。

これらを意識することで、昨日よりも早く仕事が片付き、早く帰れるようになるかもしれません。できることから始めてみてはいかがでしょうか?

4.まとめ

あなたの残業時間は、平均と比べていかがでしたか?

最近、過労死のニュースを耳にする機会が増えました。

労働基準監督署が認定する「過労死ライン」の残業時間は、80時間。国もそうした働き方を強いる会社への立ち入り調査を強化するなど、さまざまな対策を講じています。

残業=企業への忠誠心、と言わんばかりに、どこか残業することが美徳のようにされてきた向きのある日本ですが、バブル期に栄養ドリンクのCMで謳われた流行語「24時間戦えますか?」の精神は、今の時代にはそぐわないと、国や社会も気づき始めた段階に来ているのではないでしょうか。

この記事を読んで、これからの働き方を見直すきっかけにしてみてはいかがでしょうか。