年次有給について

一、年次有給の基礎

 

年次有給の基礎

年次有給休暇、いわゆる「有給」をすべて使い切っていますか?

そもそも自分の有給休暇が何日分あるのか、いつ失効してしまうのかなどについて、きちんと把握していないという人も多いのでは。

この記事では、法律で定められた年次有給休暇にまつわる決まりごとや、よくある疑問点について解説します。

 

1. 年次有給休暇のルール

まずは、労働基準法で定められた年次有給休暇に関する決まりについて、解説していきます。少し難しいと感じるかもしれませんが、しっかりした知識を持っておくことも大切です。

年次有給休暇は法律で定められた労働者の権利

年次有給休暇とは、その名の通り「有給」で休むことができる、すなわち取得しても給料が減ることのない休暇です。
法律では以下のように定められています。

有給休暇とは、一定期間勤続した労働者に対して、心身の疲労を回復しゆとりある生活を保障するために付与される休暇のこと

ほかにも、年次有給休暇をもらうための条件や、与えられる日数についての決まりがあります。

働き始めて半年で、10日間の年次有給休暇が発生

年次有給休暇をもらうための条件は2つあります。入社後、以下の条件を満たすと、10日間の年次有給休暇が与えられます。

(1)働き始めた日から6か月経過していること
(2)その期間の全労働日の8割以上出勤したこと

働いた年数が増えるほど、年次有給休暇の日数も増えていきます。

最初に年次有給休暇が与えられた日から1年を経過した日に、それまでの1年のうち8割以上出勤していれば、11日間の年次有給休暇が与えられます。その後も、同様に(2)の要件を満たすことにより、下記の日数の年次有給休暇が与えられます。

※出典:厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署「年次有給休暇の付与日数は法律で決まっています

 

【コラム】パートやアルバイトでも年次有給休暇はもらえる

労働時間が少ないパートタイム労働者などでも年次有給休暇をもらうことは可能です。具体的には週に30時間未満、かつ、週に4日以下または1年に48日~216日働いている人は、下記の日数で年次有給休暇を与えられます。

※出典:厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署「年次有給休暇の付与日数は法律で決まっています

 

法定の有給消滅時効「2年」以内なら繰越可能

年次有給休暇を使わずにいると、発生の日から2年間で時効となり消滅してしまいます

例えば、2017年4月1日に入社した場合、2017年10月1日に10日分、2018年10月1日に11日分の有給休暇が付与されます。

そして、最初に付与された10日の有給休暇を全く使わずにいた場合、時効である「2年後」に当たる2019年10月1日に消滅し、12日の有給休暇が新たに付与されます。

また、有給休暇は発生日から2年以内であれば繰り越すことができます。

 

 

年次有給休暇がないと労働基準法に違反

年次有給休暇は、労働基準法第39条によって定められた労働者の権利です。そのため、企業が従業員に有給休暇を与えなかったり、取得を拒否すると、労働基準法違反となります。違反をすると、「6ヶ月以下の懲役又は30万円以下の罰金の罰則」が科せられます(労働基準法第119条より)。

具体的には、以下のようなケースが違反とされます。

・有給休暇を取った日の分に、決められた賃金を払わない
・正当な理由もなく会社が時季変更権を行使し、有給を取る日を変更させる
・有給休暇日に出勤を命じる

年次有給休暇の給料を計算する方法

年次有給休暇取得時に支払われる賃金の計算方法については、以下の3つの方法があります。企業によってあらかじめ決められているので、就業規則などを確認してみましょう

ちなみに計算方法は就業規則などに書いてあるため、企業の都合によりその都度変えたりすることはできません。

(1)通常勤務と同等の給料
有給休暇取得日も「普通に出勤した」と仮定し、給料を計算する方法。通勤手当は実費支給と考えられるため、有給取得日の分は除いて計算します。

(2)労働基準法で定める平均賃金
有給休暇取得日の直前の締め日から前3ヶ月の給料の総額を、暦の総日数で割って算出する方法。給料からボーナスや弔慰見舞金などの臨時給料は除きます。
また、暦の総日数から、労災で休んでいる期間や産前産後休業の期間、会社都合の休業期間などは除きます。

(3)健康保険法に定める標準報酬日額に相当する金額
「標準報酬月額」から日割りで計算して、その金額を支払う方法。「標準報酬月額」とは、毎月の給料から健康保険料を支払う際、算出の基準とされている金額です。
標準報酬は金額に上限があるなど労働者にとって不利な場合もあるので、この方法を採用する際は、労働者の間で話し合って「労使協定」を結ばなくてはなりません。

 

2.日本の有給取得事情と労基法改正の動き

pixta_25141263_M_Rここまで年次有給休暇のルールを解説してきましたが、決まりはあっても実際にはあまり取得できていない、という人も多いのでは。

ここでは、日本の企業における有給取得の実態と、今後どう有給休暇の規定がどう変わっていくかについて紹介します。

海外より低い? 日本の有給消化率

エクスペディア・ジャパンが2016年12月に発表した調査によると、日本人の有給消化率は50%。海外に比べて有給休暇の消化率が低いという結果が出ています。もともとの有給休暇の日数が違うことを加味しても、韓国についで日本人は「休んでいない」という結果になっています。

 

有給休暇国際比較調査2016(エクスペディア)より
調査対象:世界28カ国18歳以上の有職者男女計9,424名
調査方法:インターネットリサーチ

こちらの調査は、各国のサンプル数が明確ではない調査なので、あくまでも参考程度に。しかし、実際に働いている人の肌感覚には近い結果となっているのではないでしょうか。

年5日分の有給の義務化で有給取得促進を狙う

上記のような調査や、「休めない」といった働く人の声を反映して、政府も有給に関する労働基準法を改正する動きを見せています。

2015年に閣議決定された労働基準法の改正案には、「企業は最低でも“5日”は有給を取らせなければならない」という決まりが盛り込まれています
正確な改正法案は以下の通り。

使用者は、10日以上の年次有給休暇が付与される労働者に対し、5日について、毎年、時季を指定して与えなければならないこととする(労働者の時季指定や計画的付与により取得された年次有給休暇の日数分については指定の必要はない)。

分かりやすく言うと、
・年次有給休暇のうちの5日は、会社でいつ取得するかを決めて強制的に取得させる
・ただし、以下の場合は除く
-労働者が自分で5日以上の有給休暇をいつ取るか決めている場合
-計画的付与で5日以上の日数をすでに付与している場合
ということになります。

2017年2月現在、国会での成立はまだ先送りされていますが、近年中には成立・施行されるとみられています。

また、この制度は「1年の有給の付与日数が10日以上の人」が対象なので、パートタイマーのように比例付与で付与された有給休暇が10日よりも少ない場合は対象となりません。

 


 

3.有給休暇にまつわるFAQ集

pixta_19607837_M_R最後に、年次有給休暇に関してよくある疑問をまとめていきます。

なお、退職時の有給休暇の扱いについて知りたい人は、当サイト記事「退職前の賢い有給消化マニュアル」を参照ください。

有給休暇の取得理由は何でもOK?

有給休暇は、労働者に与えられた「休む権利」なので、取得する際の理由も自由です

申請書の提出などが必要な場合は、「私用」と書けばOK。冠婚葬祭や病欠、通院など「遊ぶ以外の用事」がなければ有給が取りにくい、または取ってはいけない雰囲気の会社も多いかもしれませんが、気にすることはなく、取得理由を会社に伝える必要もありません。

労働基準法では、特にこの点には触れていませんが、ひいては「取得する理由を会社に伝える義務はない」と言えます。

有給休暇にまつわる判例でも、「年休の利用目的は労基法の関知しないところであり、年休をどのように利用するかは、使用者(会社)の干渉を許さない労働者の自由である」とされています。

会社の繁忙期でも有給は取って良い?

年次有給休暇は基本的に好きなときに取ることができるとはいえ、会社の繁忙期などには、会社から休暇取得日の変更を命令されることがあります

これは「時季変更権」といって、正常な業務を続けるための会社側の権利です。

「時季変更権」(労働基準法第35条第5項)
使用者は、前各項の規定による有給休暇を労働者の請求する時季に与えなければならない。ただし、請求された時季に有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合においては、他の時季にこれを与えることができる。

年末年始のサービス業や、決算時期の経理関係の仕事など、繁忙期が決まっている仕事も多いもの。責任を持って自分の仕事をこなせるよう、その時期にはできるだけ有給休暇を取らなくて済むようにしておくことも時には大切です。

有給休暇の計画的付与とは?

pixta_21832622_Mあまり高いとは言えない有給休暇取得率を改善するための施策として、有給休暇を取りやすくするための「計画的付与」という制度があります

これは、自分から日を指定して休みを申請するのではなく、予め会社が休日を指定し、その日を有給休暇とする制度です。

なお、会社が計画的付与を行う場合、以下のような決まりがあります。

・すべての有給休暇の日数のうち、「5日を超える部分」のみ計画的付与が可能。
・有給休暇の計画的付与を会社が行う場合は労使協定を結び、付与日数や方法などを決めて労働者側の同意を得る。
・入社して間もなくまだ有給休暇が与えられていない人が計画的付与で休む場合、会社は最低でも休業補償として賃金の60%以上を労働者に支給する。

有給休暇を消化すると皆勤手当はもらえない?

厚生労働省の調査によれば、皆勤手当は、日本の約34%の企業で支払われています(2010年の就業条件総合調査より)。

有給休暇を消化すると「休み」と扱われ、皆勤手当が支払われなくなるように思われがちですが、有給休暇を取った人の皆勤手当を減らしたり、支給しないことは違法とされています

有給休暇を取得した労働者に対して不利益取扱い(精皆勤手当や賞与の減額、欠勤扱いとすることによる不利な人事考課など)は禁止されており、皆勤手当のほか、賞与額の算定においても不利益として取り扱ってはいけないと定められています。

育児休暇中に有給休暇は使えるの?

育児休暇中や産前産後休暇中は、有給休暇を使うことはできません

そもそも有給休暇は、労働義務のある日についてのみ請求できるものです。育児休暇や産前産後休暇は「就労義務がない休暇」と見なされるので、有給休暇の使用対象外の期間となります。

休暇中に有給休暇の時効により消失してしまう場合は、休暇に入る前に消化するようにしましょう。

なお、年次有給休暇が与えられる要件のひとつに「出勤率が80%以上」というものがありますが、以下のように実際に労働していなくても、出勤日には数えられることがあります。

(1)業務上の負傷・疾病等により療養のため休業した日
(2)産前産後の女性が労基法の規定により休業した日
(3)育児・介護休業法に基づき育児休業または介護休業した日
(4)年次有給休暇を取得した日

よって、育児休暇中や産前産後休暇中も、有給休暇が与えられる要件だけは満たしていることになります。

4.まとめ

「年次有給休暇は、法律により労働者に与えられた権利である」ということがわかりましたか?

会社の繁忙期は取得を避けるなどの配慮はしつつも、できるだけ効率よく有給休暇を消化することを目指しましょう。リフレッシュしてさらに仕事に集中できれば、会社にも自分にも良い結果をもたらすことができるはずです。