役員報酬の賢い決め方と節税対策8つのポイント
■株式会社設立後の賢い役員報酬の決め方とその対策
目次(もくじ)
- POINT 1.役員報酬の基本となる考え方を押さえよう
1-1.役員報酬は適当には決めてはいけない
1-2.なぜ、役員報酬が資金繰りに影響するの?
1-3.結局、役員報酬はどう決めればいいの? - POINT 2.役員報酬を損金算入するための要件とは?
2-1. 定期同額給与
2-2. 事前確定届出給与
2-3. 利益連動給与 - POINT 3.役員報酬変更の基本ルール
3-1. 役員報酬変更の期限とは?
3-2. 役員報酬変更の基本的な手続きとは? - POINT 4.税法上の役員報酬と税金との関係
4-1. 法人が支払う税金
4-2. 役員個人が支払う税金 - POINT 5.法人が支払う税金
5-1. 法人税
5-2. 事業税
5-3. 住民税 - POINT 6. 役員個人が支払う税金
6-1. 所得税
6-2. 住民税
5-3. 住民税 - POINT 7.実際の役員報酬の決め方
7-1. 税引前利益を試算する
7-2. 実際の役員報酬額を決める
7-3. その他の注意点 - POINT 8. 役員報酬で節税するためのポイントは?
8-1. 会社に資金を残したい場合
8-2. 役員個人に資金を渡したい場合
8-3. 結局、どっちがいいのか? - まとめ
【当ページの情報のご利用に関して】
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POINT 1. 役員報酬の基本となる考え方を押さえよう
役員報酬を決めるにあたっては、前提となる考え方を押さえるのが不可欠です。では、どんな考え方なのでしょうか?
1-1.役員報酬は適当には決めてはいけない
絶対に覚えておいてほしいのが、「役員報酬は適当に決めてはいけない」という点です。
例えば、「今期は利益が多そうだから、役員報酬も多めに……」という考えで、どんぶり勘定をしてはいけません。資金繰りに影響を及ぼします。
1-2.なぜ、役員報酬が資金繰りに影響するの?
では、なぜ役員報酬が資金繰りに影響を及ぼすのでしょうか?
詳しくは後述しますが、会社が支払う法人税、役員個人が支払う所得税、そして、会社と役員個人が支払う社会保険料の額は、役員報酬の額次第で大きく変わってくるからです。
1-3.結局、役員報酬はどう決めればいいの?
ここでは基本的な考え方だけ押さえましょう。役員報酬は、会計上の利益と、法人税等の税法の規定を踏まえ、慎重に決めるのがベストです。
また、会社法でも、役員報酬等については、定款に記載をするか、株主総会の決議を経なければならないと規定されています(会社法第361条)。一般的には、直接定款に記載する方法は取らず、定時株主総会決議で決定する会社が多いようです。
株主総会議事録の雛形・サンプルをご用意しておりますので、ご参考ください。
ここから先は、慎重に決めるために不可欠な知識を一つずつ解説していきます。
POINT 2.役員報酬を損金算入するための要件とは?
節税との関係で役員報酬をとらえた場合、損金算入ができることが条件になります。
しかし、役員報酬を損金算入するためには、一定の条件を満たす必要があります。次のいずれかに該当すれば、損金算入が可能です。
- 定期同額給与
- 事前確定届出給与
- 利益連動給与
それぞれの項目について、詳しく解説していきます。
2-1. 定期同額給与
毎月同じ金額を役員に報酬として支払い、会計上も費用として処理すれば、税務上の損金になるという仕組みです。
ここでのポイントは、「毎月同じ金額」であること。
利益操作に使われるのを防ぐ観点から、利益に応じて自由に決めてはいけない規定となっています。
ただし、どうしても減額せざるをえない状況になった場合は、減額していいという例外規定もあるのを覚えておきましょう。具体的には、次の場合に減額が認められます。
- 業績や財務が悪化して、株主との関係上、役員としての経営責任を取るために役員報酬を減額せざるを得ない場合。
- 取引銀行との借入金返済の予定協議において、役員報酬を減額せざるを得ない場合。
- 業績・財務状況の悪化により、取引先など利害関係者との信用を維持するため、財務体質の改善を迫られている場合。
- 特定の役員の不祥事、会社への社会的評価の悪化など、経営にリスクを及ぼす要因が生じたため、一時的にやむを得ず行われたものであり、その処分内容が社会通念上相当である場合。
なお、この例外規定を用いて役員報酬を減額した場合、その減額した金額を決算月まで毎月計上すれば、法人税上役員報酬として認められます。
ただし、株主総会議事録を作成する必要があるので覚えておきましょう。後日税務調査が入った場合、役員報酬を減額したいきさつを説明するうえでも、とても重要な資料となります。
2-2. 事前確定届出給与
「ある特定の日に、これだけの金額を役員報酬として支払う」という旨の届出を税務署に行い、その内容通りの役員報酬の支払いがあれば、税法上の役員報酬として認められる仕組みです。
ここで注意してほしいのは、「届出の通りか」という点です。日付、金額ともに合致していなければ、税法上役員報酬として認めてもらえません。業績が悪化して役員報酬を減らした場合でも不可なので、注意しましょう。
2-3. 利益連動給与
主に、有価証券報告書を提出している上場企業で用いられています。
前もって役員報酬の算定基礎となる指標等を有価証券報告書に記載し、それに基づいて役員報酬が支払われれば、損金算入できる仕組みです。
ただし、次の5つの条件を満たさなくてはいけません。
- 確定額を限度とし、かつ、他の業務執行役員に対して支給する利益連動給与の算定方法と同様であること。
- 会計期間3か月経過日までに、報酬委員会(※)が決定しており、その他これに準ずる適正な手続きを経て決定していること。
※業務執行役員またはその者の特殊関係者が委員となっているものを除く。 - その内容が、決定または手続の終了の日以後遅滞なく、有価証券報告書に記載されていることその他所定の方法により開示されていること 。
- 利益に関する指標の数値が確定した後1ヶ月以内に支払われ、または支払われる見込みであること。
- 損金経理をしていること。
POINT 3.役員報酬変更の基本ルール
役員報酬を変更する場合、次の2つのルールを守らなくてはいけません。
3-1. 役員報酬変更の期限とは?
役員報酬を変更する場合、新しい会計年度に入ってから3か月以内に行わなくてはいけません。
3-2. 役員報酬変更の基本的な手続きとは?
役員報酬を変更する場合、次の2つの手続きを行いましょう。
- 1)「役員報酬の月額」を決めた株主総会議事録を作成する。
- 2)株主総会議事録に役員報酬の金額を明記し、保管する。
POINT 4.税法上の役員報酬と税金との関係
役員報酬が損金に算入できる場合、どんな税金の金額に影響を及ぼすのでしょうか?基本を押さえましょう。
4-1. 法人が支払う税金
法人税、事業税、住民税に影響を及ぼします。
4-2. 役員個人が支払う税金
所得税、住民税に影響を及ぼします。
POINT 5.法人が支払う税金
法人が支払う税金について、基本的な仕組みを解説します。
5-1. 法人税
会社の所得(=利益)にかかってくる税金です。所得が高くなればなるほど、法人税も高くなります。税率ですが、平成28年4月1日以降に開始する事業年度については、23.4%となっています。
5-2. 事業税
こちらも法人税と同じく、会社の所得(=利益)にかかってくる税金です。所得が高くなればなるほど、事業税も高くなります。
5-3. 住民税
法人にかかる住民税の場合、法人税額を基に計算する法人税割と従業員数・事業所数から計算する均等割から構成されます。
POINT 6. 役員個人が支払う税金
役員個人が支払う税金についても、基本的な仕組みを解説します。
6-1. 所得税
役員個人の所得に対してかかってくる税金です。所得が高くなればなるほど、所得税も高くなります。
具体的には、超過累進課税と言って、所得の額ごとに税率が決まっている仕組みです。2016年6月現在、税率は次のようになっています。
課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
195万円以下 | 5% | 0円 |
195万円を超え330万円以下 | 10% | 97,500円 |
330万円を超え695万円以下 | 20% | 427,500円 |
695万円を超え900万円以下 | 23% | 636,000円 |
900万円を超え1,800万円以下 | 33% | 1,536,000円 |
1,900万円を超え4,000万円以下 | 40% | 2,796,000円 |
4,000万円超 | 45% | 4,796,000円 |
※平成25年から平成49年までの各年分の確定申告においては、所得税と復興特別所得税(原則としてその年分の基準所得税額の2.1%)を併せて申告・納付する。
6-2.住民税
地方自治体が行う行政サービスに必要な資金を賄う目的で定められている税金です。
課税対象者は全員払う部分=均等割と、所得に応じて支払う部分=所得割からなっています。標準税率は、均等割が年5,000円、所得割が一律10%です。
POINT 7.実際の役員報酬の決め方
実際に役員報酬を決めるには、何をすればいいのでしょうか。ポイントをまとめました。
7-1. 税引前利益を試算する
役員報酬を決める際は、税引後利益を試算することからスタートしましょう。計算例をを出してみるとわかりやすいかもしれません。
計算例)
- 収益 2,000万円
- 費用 1,000万円
- 税引前利益 1,000万円
- 法人税等 234万円
- 税引後利益 766万円
計算例の場合、766万円から役員報酬を算定します。仮に税引前利益から役員報酬を計算してしまうと、税金の支払いに使う資金が残らず、資金繰りに影響する場合もあるので、十分に注意しましょう。
7-2. 実際の役員報酬額を決める
税引後利益が確認できたら、節税も鑑みつつ、実際の役員報酬額を決めましょう。詳しくは後述します。
7-3. その他の注意点
役員報酬を決める際、キャッシュフローとの関連にも注意しましょう。特に、銀行など金融機関からの借入金がある場合、返済に影響を及ぼしてはいけません。資金繰りをしっかりチェックしてください。
POINT 8. 役員報酬で節税するためのポイントは?
役員報酬で節税したいと思うなら、個人の所得税・住民税、法人の法人税・事業税がどのように動くかをしっかり押さえなくてはいけません。詳しく解説します。
8-1. 会社に資金を残したい場合
金融機関からの融資を受けたいなど、会社に資金を残したい、業績をよく見せたい場合は、役員報酬を低くしましょう。
これにより、会社の利益は上がります。ただし、この方法を使った場合、会社が支払うべき法人税・事業税が高くなるので注意が必要です。
8-2. 役員個人に資金を渡したい場合
役員が高額の固定資産(家、車など)の購入を控えているなどの理由で、役員報酬を多めにする場合、税金にはどう影響するのでしょうか。
当然ですが、役員個人が支払うべき所得税・住民税が高くなります。この方法を用いる場合、納税資金を確保するのも大事なポイントでしょう。
8-3. 結局、どっちがいいのか?
このように、役員報酬は様々な税金と密接に関連しています。
会社に重きをおくか、役員個人に重きを置くかで、取るべき方法が異なっているのも事実です。
「うちの会社にあった方法を提案してほしい」と考えるならば、税理士などの専門家に相談するのが一番確実でしょう。
9. まとめ
ここまで書いてきた内容を踏まえ、役員報酬の賢い決め方と節税についてのポイントをもう一度おさらいしましょう。
大事な点ですので、しっかりと押さえておいて下さい。
節税勝負!自動車のリース or 購入比較
ビジネスの種類にもよりますが、社用車があれば何かと便利です。
公共交通機関でのアクセスが難しいお客様が多い場合、社用車は必須でしょう。
しかし、社用車をローンで買うのがいいのか、リースで借りるのがいいのか、悩んでいませんか?
実はリースだと、節税もできる上に、業務も楽になるんです。具体的にどういう効果があるのか、しっかり説明します!
目次(もくじ)
- 5年間でいくらかかるか比較してみました
1-1.日産「シルフィ S(2WD)」の場合
1-2.一見あまり変わらないようですが… - 自動車のリースの4つのメリット
2-1.手元資金を温存できる
2-2.全額経費にできる
2-3.コストの把握がしやすい
2-4.業務をアウトソースできる - 自動車リースの2つのデメリット
3-1.中途解約ができない
3-2.走行距離を決めなくてはいけない - まとめ~上手に使えば効果が高い
1.5年間でいくらかかるか比較してみました
やはり気になるのは、お金の話でしょう。
5年間同じ車に乗るとして、ローンとリースの場合の支払額を徹底比較してみました。
1-1.日産「シルフィ S(2WD)」の場合
まず、ローン(残価設定型クレジット)を利用し、5年後に車を買い取るケースでの総支払額を計算しました。次のようになっています。
※実質年率4.9%(60回払い)、契約走行距離1,000km/月として算定
メーカー希望小売価格(消費税込み) | 1,992,600円 |
---|---|
メンテプロパック54(消費税込み) | 135,000円 |
グッドプラス保証(消費税込み) | 16,000円 |
合計金額 | 2,143,600円 |
頭金 | 749,600円 |
分割支払額(初回)×1回(9月) | 6,503円 |
分割支払額(2回目以降)×48回 | 4,000円 |
分割支払額(ボーナス)×10回(12月/7月) | 101,000円 |
最終回支払額(車を買い取り) | 418,000円 |
支払総額 | 2,376.103円 |
次に、同じスペックの車を5年間リースした場合にいくらかかるか計算してみました。
月額リース料×50回 | 864,000円(=17,280円×50回) |
ボーナス月支払額×10回 | 1,480,260円(=148,026円×10回) |
合計 | 2,344,260円 |
---|
1-2.一見あまり変わらないようですが…
ご覧いただいたように、ローンの場合でも、リースの場合でも、支払う総額は230万円台とあまり変わりません。
しかし、注意していただきたい点があります。
実はこの数字には諸費用が入っていません。
車を購入した場合、次の諸費用を支払う必要があります。
- 自動車取得税
- 自動車重量税
- 自動車税
- 自賠責保険
- リサイクル券代金
5年間支払うことを考えると、ローンの方が、リースよりずっと出費が多くなりことはお分かりいただけたでしょうか?
リースの場合、これらの費用はリース会社が支払うので、自分で支払う必要がありません。
節税という意味では、リースはかなり優れた手段と言えるでしょう。
2.自動車のリースの4つのメリット
諸費用を支払う必要がない、という点以外にも、自動車のリースにはメリットがあります。
2-1.手元資金を温存できる
自動車を購入するとなると、頭金などでまとまった現金が必要です。
起業したての会社の場合、事業拡大のためにまとまった現金を手元資金として残しておくに越したことはありません。
リースなら月々の支払いがわずかなので、手元資金を温存できます。
2-2.全額経費にできる
リース料は全額経費処理できます。
その分、高い節税効果が期待できるでしょう。
2-3.コストの把握がしやすい
あらかじめ、毎月支払うべきリース料は決まっています。
そのため、車にかかるコストの把握がしやすいので、キャッシュフローの見通しや事業計画・予算の策定が簡単にできるのも大きなメリットです。
2-4.業務をアウトソースできる
自動車を購入した場合、様々な付随業務が発生します。
例えばこのような形で、個人保有の自動車を会社名義に変更するだけでも運輸支局での煩雑な手続きが必要になります。
規模の小さな会社なら、全部こなすのはかなりの業務上の負担となるでしょう。
一方、リースの場合は大幅に業務をアウトソースできます。
どのような業務をアウトソースできるのか、比較表を作ってまとめてみました。
(○=自分で行う、×=自分で行わない、△=リース会社と合同で対応)
部門・業務名 | 業務内容 | 購入 | リース |
---|---|---|---|
総務部門 | 車種選定・起案・決済・発注 | ○ | ○ |
自動車保険の付保更新手続・期日管理 | ○ | × | |
自賠責保険の付保更新手続・期日管理 | ○ | × | |
諸税の照合・納税手続き | ○ | × | |
整備料金など、請求書のチェック業務 | ○ | × | |
車両売却、処 | ○ | × | |
財務・経理部門 | 購入資金調達 | ○ | × |
車両代金・登録諸費用の支払い、集計 | ○ | × | |
諸税、保険料、修理費などの支払い、集計 | ○ | × | |
車両固定資産計上 | ○ | × | |
減価償却及び決算事務 | ○ | × | |
固定資産除却処理 | ○ | × | |
リース料支払い | × | ○ | |
各事業所の対応 | 車両管理台帳作成 | ○ | ○ |
保管場所管理 | ○ | ○ | |
運行管理 | ○ | ○ | |
法定定期点検、継続車検などの期日管理 | ○ | × | |
整備工場との折衝 | ○ | × | |
点検・修理代チェック、伝票作成 | ○ | × | |
事故保険関係業務 | 事故報告 | ○ | ○ |
保険事故処理 | ○ | △ | |
事故車両の修理見積書の作成指示 | ○ | × | |
保険会社との折衝 | ○ | × | |
事故車両の修理手配 | ○ | × | |
保険金請求手続き | ○ | × |
リースは自動車保有による事務手続きがほぼ発生しません。手続きの大半をリース会社が行ってくれるようです。
タイムイズマネーですから、リースは事務コストの削減という点に関しても、メリットは大きいですね。
3.自動車リースの2つのデメリット
一方で、次のデメリットがあることも押さえておきましょう。
3-1.中途解約ができない
基本的にリース契約の場合、中途解約ができません。
リース会社が定める一定の場合、解約はできますが、多額の違約金がかかります。
3-2.走行距離を決めなくてはいけない
月々のリース料金は走行距離をもとに決められます。
走行距離の見積もりを誤った場合、超過料金を取られるので注意してください。
4.まとめ~上手に使えば効果が高い
節税の観点を中心に、自動車のリースと購入について比較してみました。
結論から言えば、リースには節税だけではないメリットがあるので、存分に活用していただきたいところです。
資金繰りに及ぼす影響なども考えて、ベストの選択をしてください。
【会社経営者・起業家向け】どこよりも分かりやすく解説!生命保険による相続税対策のメリット&デメリット
起業家の皆さまにとっては、会社を大きくしていくのも重要な問題ですが、ご自分に万が一があった場合にどうするか考えるのも同じくらい重要です。
そこで活用してほしいのが、生命保険の活用です。実は生命保険はうまく使えば、相続税対策にも活用できます。
なぜ、そんなことが可能なのでしょうか?
生命保険を法人として契約するメリット・デメリットと合わせて考えてみましょう。
(※以下の文章においては、法人生命保険=生命保険として記述します。)
【目次】
- なぜ、生命保険で相続税対策ができる?(基本編)
1-1.死亡保険金の非課税枠
1-2.死亡退職金の非課税枠
1-3.実際、どのぐらい相続税が節税できるのか? - なぜ、生命保険で相続税対策ができる?(応用編)
2-1.生命保険を活用すれば、相続の様々なシーンに活用できる
2-2. 死亡退職金の支払原資を準備できる
2-3.弔慰金を準備できる
2-4.自社株評価額を下げられる
2-5.相続税の支払原資を準備できる - その他の生命保険のメリットは?
3-1.相続税対策だけではないメリットがある
3-2.緊急時の予備資金として活用できる
3-3.決算直前の法人税対策にも使える
3-4.保障が受けられる - 生命保険のデメリット
4-1.生命保険のデメリットとは?
4-2.会社のキャッシュフローに影響する
4-3.保険の解約のタイミング次第では損をする
4-4.節税効果があるといっても、税金の繰り延べに過ぎない - まとめ
【当ページの情報のご利用に関して】
当ページは、株式会社及び合同会社設立等、起業手続きに付随する税務会計等の情報として、提供、公開しております。最新の税務・税法等に関するご判断・お手続き等に関しましては、必ず、貴社顧問税理士にご相談の上、行って頂きますようお願い申し上げます。
顧問税理士がいらっしゃらない場合はこちらのサイト(全国税理士紹介センター)よりご紹介も可能でございます。
1.なぜ、生命保険で相続税対策ができる?(基本編)
1-1.死亡保険金の非課税枠
相続が起こった場合、誰にでも死亡保険金の非課税枠は認められています。
つまり、「500万円×法定相続人の数」の金額までなら、受け取った保険金について相続税はかからないのです。
これは、個人事業主としてビジネスを営む場合でも、法人の代表者としてビジネスを営む場合でも変わりません。
1-2.死亡退職金の非課税枠
ここからは、法人の代表者としてビジネスを営んでいる場合にだけ受けられる特典といってもいいかもしれません。
法人の代表者が亡くなって、会社で契約していた保険から保険金を受け取った場合、いったん会社が預かり、その後、遺族に死亡退職金として渡すパターンが一般的です。
相続税法では、死亡退職金についても非課税枠が決められています。
死亡保険金と同じく、「500万円×法定相続人の数」までなら相続税はかかりません。
また、死亡退職金を払うことは、法人にとってもメリットがあります。
死亡退職金は一般的に、「最終報酬月額×勤続年数×功績倍率」の式で求められますが、これが不当に高額でない場合、経費に算入できるのです。
なお、功績倍率は次の数字が使われています。
役職 | 倍率 |
---|---|
社長 | 3.0 |
専務 | 2.4 |
常務 | 2.2 |
平取締役 | 1.8 |
監査役 | 1.6 |
つまり、法人にとっても、法人の代表者個人にとっても、死亡退職金の制度はメリットが大きいといえるでしょう。
1-3.実際、どのぐらい相続税が節税できるのか?
この2つの非課税枠だけで、どのくらい相続税が節税できるか考えてみましょう。次の事例を思い浮かべてください。
例)法定相続人3人(配偶者、子ども2人)、現金1億円分の相続が発生したとする。
パターンA:全額現金で相続する。
この場合、相続税は315万円
パターンB:現金7,000万円、死亡保険金1,500万円、死亡退職金1,500万円で相続する。
この場合、相続税は113万円
→差額は202万円
3分の1近くまで相続税が減りました。かなり高い節税効果が見込めるのがお分かりいただけたかと思います。
2.なぜ、生命保険で相続税対策ができる?(応用編)
2-1.生命保険を活用すれば、相続の様々なシーンに活用できる
死亡保険金、死亡退職金の非課税枠のみならず、生命保険は相続の様々なシーンに活用できます。
ここでは、次の4つのトピックについて解説します。
- 死亡退職金の支払原資を準備できる
- 弔慰金の支払原資を準備できる
- 自社株評価額を下げられる
- 相続税の支払原資を準備できる
2-2. 死亡退職金の支払原資を準備できる
法人の代表者が亡くなった場合、死亡退職金を法人から代表者個人に支払わなければいけません。
実際の金額がいくらになるかは、個々のケースによって異なります。
しかし、勤続年数が長くなればなるほど、死亡退職金も高額になるのは間違いありません。
生前に何も対策をしないまま、代表者が亡くなってしまった場合、支払いに充てる現金をどこから調達するかが問題となります。
この点、生命保険を活用すれば、長いスパンで準備をしていくことが可能です。
2-3.弔慰金を準備できる
法人の代表者が亡くなった場合、死亡退職金とは別に弔慰金を支給するケースがあります。
業務上の死亡の場合は普通給与の3年分、業務外の死亡の場合は普通給与の6か月分までなら、相続税は課税されません。
(※超える場合は死亡退職金として相続税が課税される。)
弔慰金の支払いに充てる目的でも、生命保険は活用できます。
2-4.自社株評価額を下げられる
法人の代表者の相続が起こった場合、問題となるのが代表者個人が所有する自社株です。
会社の規模によっては、かなりの資産価値がある場合もあります。
このとき、何もしないで遺族が相続したら、相続税の支払いも多額になってしまうのです。
そこで、いかにして相続税評価額を引き下げるかが大きな問題になります。
なお、自社株の相続税評価額を求める際、一般的には類似業種比準価額が使われます。
これは、次の項目を使って評価額を求める方法です。
- 類似業種の株価
- 自社の配当金
- 自社の利益
- 自社の純資産額
このため、利益を引き下げさげられれば、相続税評価額は大幅に安くなります。
生命保険を法人で契約し、保険料を損金算入していれば、利益は下がるので、結果として自社株評価額も安くなるという仕組みです。
2-5.相続税の支払原資を準備できる
いくら相続税を安くする取り組みをしたところで、相続税が発生した以上は払わなくてはいけません。
その時にどれだけまとまったお金を遺族に残せるかは、とても重要です。
生命保険を使えば、まとまったお金を遺族に残せ、相続税の支払いに回せます。
3.その他の生命保険のメリットは?
3-1.相続税対策だけではないメリットがある
法人で生命保険を契約する場合、相続税対策以外の面でもメリットがたくさんあります。ここでは、次の3つのメリットについて解説しましょう。
- 緊急時の予備資金として活用できる
- 決算直前の法人税対策にも使える
- 保障が受けられる
3-2.緊急時の予備資金として活用できる
保険料のうち一定の金額を損金に算入できる生命保険の場合、帳簿外に緊急予備資金を貯めておくことができます。仕組みを解説しましょう。
このような会社があると考えてください。
例)
- 売上:1億円
- 税引前利益:1,000万円
- 社員:10名
- 保険金:5,000万円
- 年支払保険料:500万円
- 損金計上の割合:1/2
- 保険満期までの期間:10年
この場合、毎年の支払保険料500万円のうち250万円を経費で計上し、残りの250万円は保険料積立金として資産計上します。
そのまま10年保険料を支払い続けたとしましょう。
10年後の貸借対照表には2,500万円の保険料積立金が計上されています。
10年経過した時点で解約し、解約返戻金を5,000万円(=500万円×10)受け取った場合、帳簿外に2,500万円貯めておけたということになるのです。
大きな取引先の倒産など不測の事態が生じた場合に備え、帳簿外にまとまったお金をためておけるのは、かなりのメリットでしょう。
3-3.決算直前の法人税対策にも使える
ビジネスがうまくいって、予想していた以上の利益が出る場合もあります。
嬉しいことは嬉しいのですが、法人税対策をどうするかが悩みどころではありませんか?
このような場合にも、生命保険は活用できます。
一般的に、生命保険を検討し始めてから、保険料を損金計上するまでには、次の5つのステップを踏みます。
(STEP1)保険商品を検討する。
(STEP2)保険商品を契約する。
(STEP3)医師の審査を受ける。
(STEP4)保険料を振り込む。
(STEP5)診査が完了し、通れば契約が成立する。
ここで、いつ保険料を損金計上できるかが問題となります。
正解は、4の保険料を振り込んだ時点です。1~4までのステップは、早ければ1週間程度で完了します。
1週間もあれば、決算に間に合わせるには十分でしょう。
3-4.保障が受けられる
生命保険の基本的な性質としては、保障が受けられることがあげられます。
法人の代表者なら誰でも、「自分に万が一のことがあったら、会社はどうなるんだろう」という不安に襲われたことはありませんか?
仮に万が一のことがあった場合、社内が混乱してしまうと、取引先・銀行などの関係者からの信用が得られなくなり、融資が止められ、資金繰りがショートするなど経営危機に立たされる可能性は十分にあります。
残された役員や社員への給与・賞与の支払いも心配しなくてはいけません。
そんなときに、生命保険を活用し、ある程度のまとまった現金を受け取れれば、経営の立て直しもスムーズにいくはずです。
4.生命保険のデメリット
4-1.生命保険のデメリットとは?
相続税対策もでき、経営上のリスクにも備えられる生命保険は、一見いいことづくめの商品に思えるかもしれません。
しかし、次に掲げる一定のデメリットもあります。
- 会社のキャッシュフローに影響する
- 保険の解約のタイミング次第では損をする
- 節税効果があるといっても、税金の繰り延べに過ぎない
それぞれについて解説します。
4-2.会社のキャッシュフローに影響する
生命保険に加入した場合、保険料を支払うのは当たり前です。
年払保険料が500万円の場合、年間500万円の現金が流出します。
しかも、生命保険は長期にわたって保険料を支払うのが前提であるため、会社のキャッシュフローに及ぼす影響は大きいです。
ビジネスを成長させるために、現金を新規事業の投資や人員の拡充に充てる場合は、キャッシュフローの悪化は何としても避けたいところでしょう。
そうなると、生命保険を契約するのはいい選択肢ではありません。
4-3.保険の解約のタイミング次第では損をする
生命保険を解約した場合、解約返戻金を受け取ることができます。
しかし、返戻率はいつ解約するかで大きく違うのも現実です。実際の返戻率は個々の商品によって違いますが、中には早期解約をすると40~80%しか戻ってこない商品もあります。
途中で生命保険を解約することを考えて、契約する場合には、「いつ解約するか?」もしっかり見極めた方がいいでしょう。
4-4.節税効果があるといっても、税金の繰り延べに過ぎない
生命保険の保険料は、一定の割合で損金に算入でき、節税効果が見込めます。
しかし、生命保険を解約したときに解約返戻金を受け取った場合、その金額は雑収入として益金となって、法人税が課税されます。
つまり、節税効果が見込めるといっても、実態は税金の繰り延べでしかないのです。
途中で解約する場合は、受け取った解約返戻金をどう使うかという戦略も併せて考えないといけません。
5.まとめ~結局、生命保険を契約するときに気を付けることは?
生命保険は上手に活用すれば、相続税の節税や経営のリスクに備えるための有効な手段となります。
一方で、キャッシュフローに及ぼす影響も大きく、解約返戻金の活用法もしっかり考えなくてはいけません。
そうなると、どんな生命保険を契約するのが一番いいかは、個々のケースによって異なるでしょう。
やはり、顧問の税理士や保険会社の担当者としっかり打ち合わせを行い、商品を吟味して契約するのをお勧めいたします。
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