個人事業を開業するのに必要な手続きは?~個人事業開業マニュアル~+会社を辞めて個人事業をはじめる場合の年金・健康保険の手続きは?+個人事業主の給与って?所得・利益との違いは?

個人事業を開業するのに必要な手続きは?
~これで完璧!個人事業開業マニュアル~

はじめに

起業相談を受けていますと、会社設立ありきでの起業をお考えの方も多くいらっしゃいます。

ただ、中にはリスクを取ってまで会社を設立しなくても、まずは個人事業からスタートすれば良いのでは?と思われる相談者様は多いのです。

そのような方には会社設立のメリット・デメリット、個人事業のメリット・デメリットをきちんとご説明をした上で、個人事業を選択してもらっています。

信用面や節税面に重きを置くのであれば株式会社を選べばまず間違いありません(株式会社を設立したい方はこちらで情報収集してください)。

そうではない場合は、個人事業からはじめて、利益が出てくれば株式会社へ法人成りという形で問題ありません。

特に相談が多いのが飲食、理美容、フリーランスを始めようとされる方々です。これらの業種の場合、いきなり株式会社を作る必要はありません。

法定実費だけで20万円以上かかりますし、法人というだけで各種様々なランニングコストがかかりますし、運営事務も大変です。

会社法という新たな縛りが1つ増えるわけですので。

では、個人事業で開業する場合はどのような手続きが必要になるのでしょうか?株式会社や合同会社の設立手続きに関する情報はネット上に多く掲載されていますが、意外に少ないのが個人事業の個別具体的な開業手続きです。

自分で言うのも何ですが、株式会社や合同会社は手続きの代行サービスで報酬がとれますから、我々士業、代行業者が情報を数多くネット上に提供しているのですね^^;

会社を設立してほしいから、集客のためにも会社設立のメリットや手続きの情報をバンバン掲載しているわけです(別にだからといって、どこの業者も嘘の情報を載せているわけではありません。みなさまのお役に立つに情報ですので、ご安心ください^^v)。

ですから、相談に来られる方も、会社設立手続きの知識に関してはある程度下調べをしておえれて知識をお持ちなのですが、面談の中でいざ個人事業での開業と決まった途端、「はて?では何をすればよいの?」と考え込んでしまうのです。

答えは簡単です。当ページに書いてあることをやってもらったらそれでOKです。実際に面談に来られる方にもお伝えしている内容です。

個人事業は会社設立に比べると手続きも簡単ですし、それこそ今スグにでも動き出すことができます。会社設立には必要な印鑑証明書の取得や印鑑の作成なども一切いりません。

このページでは、個人事業開業に必要な手続きをステップに分けて解説していきたいと思います。お役に立てれば幸いです。

目次(もくじ)

  • 1.屋号と営業場所を決めよう
  • 2.税務署へ開業届出を出そう
    |-税務署への届出書類一覧
  • 3.銀行口座を作ろう
    |-どこの銀行を選べば良い?
  • 4.許認可を取ろう
  • 5.帳簿を付けよう
  • 6.人を雇ったら必要な届出を行おう
    |-労働基準監督署への手続き
    |-ハローワークへの手続き
    |-日本年金機構への手続き
  • 7.確定申告を行おう
  • まとめ

1.屋号と営業場所を決めよう

個人事業主でも実は屋号を定めることができるのです。

次の2で説明する税務署への開業届出書に屋号を記載する欄があります。飲食店や美容院であれば店舗名、WEB制作系のフリーランスであれば「○○デザイン」などといった名称を屋号にしたりですね。

営業に使う銀行口座の名義を屋号付きで作ってくれる銀行もありますから、屋号付きの口座を持ちたい場合は、最初に屋号を決めておきましょう。

ちなみこの屋号は絶対に必要なものではなく、特に決める必要がなければ、空白で書類を提出しても構いません。

営業場所も決めておきましょう。納税地が決まります。営業場所は自宅でも、テナント・事務所などどこでも構いません。

2.税務署へ開業届出を出そう

個人事業の場合は、管轄の税務署に開業届出書を提出するだけで事業を開始できます。会社設立に比べると非常にラクですね。

開業届に必要な印鑑もなんと認印だけです。印鑑証明書も住民票も要りません。

税務署からすると、きちんと確定申告をして税金を払ってくれれば良いだけなので、審査も特にありません。形式的に不備がないか簡単なチェックをするだけです。

開業届出書を提出する際、必ず受付印が入った控えをもらっておきましょう。屋号付きの銀行口座の開設や営業許可取得時に必要になるケースが多いです。

また、開業と同時に公庫や自治体融資などを感がている場合も開業届けの控えを提出させられますので、コピーなどを複数枚とって保管しておきましょう。

税務署への届出書類一覧

  • 個人事業の開業届出書
  • 青色申告承認申請書
  • 給与支払い事務所などの開設届
  • 源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書
  • 青色事業専従者給与に関する届出書

個人事業に開業届出書がメインの書類になりますが、これらの書類は全て提出しておくほうがよいでしょう(専従者給与などの支払いがない場合は5は要りません)。

特に青色申告承認申請書は税務上のメリットが大変大きいので、必ず同時に提出しておきましょう。

青色申告の主なメリット
  • 青色申告の特別控除を受けられる
  • 青色事業専従者給与額を必要経費に算入できる
  • 純損失の繰越控除が受けられる
  • 貸倒引当金の計上が可能
  • 棚卸資産の評価において低価法を選択できる
  • 少額減価償却の特例を受けることができる etc

3.銀行口座を作ろう

営業上、屋号付きの銀行口座を作りたい場合、銀行によっては審査が厳しい、あるいは開設が不可というところもあります。

1つの銀行にあなた個人の名義で複数の口座を持っている場合も、追加で作らせてくれない場合があります。その場合は、口座をまとめるか、別の銀行で新たに開設するしかありません。

どこの銀行を選べば良い?

あなたの営業形態にあった銀行にすると良いでしょう。入出金が多いので近くにATMや営業所がある方がいい、振込が多いので手数料はできる限り安いネット銀行の方がいい。などですね。

将来融資を考えている場合は、都市銀行やネットバンキングではなく地場の信用金庫などでも口座を作っておくと良いでしょう。お金が借りやすくなります。

4.許認可を取ろう

営業に必要な許認可を取得しておきましょう。詳しくはこちらをご覧ください(許認可が必要な業種一覧)。会社向けのページにはなっていますが、必要な許認可に関しては会社も個人も違いはありません(ただし、会社でなければ許認可が下りないものもありますので、その場合は会社を作るしかありません)。

飲食店なら飲食店営業許可、理美容店なら開設許可。インターネットオークションなどで中古品を販売するなら古物業許可など。

ネット営業中心のフリーランスの方などは、特に許認可は要らないことが多いです。

とはいえ、自分が行う営業が許認可業種に当たらないかどうかは自分だけで判断するのはよくありません。

許可事業が必要な業種を無許可で営業していると罰則があります。最悪逮捕されるケースもあります。

自分がはじめる仕事に許認可が必要かどうか分からないという方は、自分勝手に判断せずに弁護士や行政書士、税理士などの身近な専門家に予め相談しておきましょう。

5.帳簿を付けよう

個人事業主も納税の為に毎年確定申告を行わなければなりません。

その為の帳簿付けは必須です。毎日とまでは言わなくても毎月でもいいので、会計帳簿を付けておきましょう。

今は会計ソフトも安価で入力も簡単なものがたくさん出ています。有名なもので言うと弥生会計やクラウド会計の「freee」ですね。

複式簿記の知識が無くても、簡単な入力のみで申告に必要な決算書類が作成できます。

これらのソフトを使えば税理士さんを顧問につけなくてもなんとか会計記帳と申告はできると思います。

ただし、税務会計なんて面倒くさくてやってられない、より適切に節税したい、資金調達を行いたいといった方々は、税理士に税務会計はお願いしましょう。

売上規模にもよりますが、個人事業であれば月の顧問料が1~2万円、年間では決算込みでも20~30万円くらいです。

経理スタッフを1人雇うよりもよっぽど安くすみますし、何よりプロに任せられるので安心して本業に精をだすことができます。

6.人を雇ったら必要な届出を行おう

個人事業主なんてアルバイト雇って現金か振込で簡単に給料払っておけばいいんでしょう?と簡単に考えてらっしゃる方が多いのですが、そうではありません。注意してください。

人を雇った場合に必要な手続きをこれから説明しますが、「人を雇うということはこれだけ大変なんだ」ということを現段階で認識しておいてください。

<労働基準監督署への手続き>

従業員(正社員・スタッフ・アルバイト・パートなどの呼称は問わず)を雇ったら、労働基準監督署への各種手続きが必要になります。

労災保険は一人でも従業員を雇ったら必ず入らなければなりませんので、忘れずに手続きを行うようにしましょう。

<ハローワークへの手続き>

従業員を雇用し、雇用保険の対象者となる方(1週間の所定労働時間が20時間以上で31日以上の雇用見込がある人を雇い入れた場合)がいる場合は、ハローワークへの手続きが必要になります。

<日本年金機構への手続き>

個人事業主でも従業員が5人以上いる場合は社会保険(健康保険と厚生年金)に加入するする必要があります。

5人以下でも社会保険に入りたい場合は、任意で加入することも可能です。

7.確定申告を行おう

個人事業の確定申告期間は毎年2月16日から3月15日までで、対象となる事業年度は、その確定申告期間の前年1月1日から12月31日までの1年間になります。

個人事業の場合、「帳簿を付けよう」の箇所でも解説しましたが、頑張れば税理士などの専門家に頼まなくても自分で申告が可能です。

とは言え、事業規模、売上規模にもよりますので、適切な申告と納税ができるか心配だという方は、決算だけでもスポットで税理士に依頼すると良いでしょう。

まとめ

以上、いかがでしたでしょうか。

個人事業と言えど、きちんと手続きを行おうと思うと、意外としなければならないことって多いものですよね。

開業を考えている人は、早め早めの準備を行い、良いスタートを切れるようにしましょう。

あと、言い忘れましたが、脱サラして個人事業を始める方は、クレジットカードも予め作っておきましょうね!今、一枚も持っていないという方は特に。

サラリーマン時代は会社の信用があるので審査も比較的簡単に下りていたと思いますが、個人事業で開業したらそうではなくなります。社会的な信用は一気に失墜してしまいますので・・・・。まあでもこれは仕方のないことです。

私もそうでしたから。ある程度実績を積むまではクレジットカードが作りにくいので、予め何枚か作っておくと経費の支払い決済にも使えますし、便利です。

もう既に開業してしまったよ、という方はこちらのクレジットカードにチャレンジしてみて下さい。個人事業主及び法人代表者向けのビジネス用クレジットカードです。経費決済はもちろんOKで、資金調達優遇も付いてます。既にクレジットカードをお持ちの方もぜひ参考にして頂ければと思います。

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会社を辞めて個人事業をはじめる場合の年金・健康保険の手続きは?

当ページでは、勤めていた会社を退職して、個人事業をはじめる場合の年金と健康保険の手続きについて解説していきます。

会社員時代は・・・

  • 国民年金(第2号被保険者)+厚生年金
  • 健康保険

に加入していましたが、

個人事業主となったら・・・

  • 国民年金(第1号被保険者)
  • 国民健康保険(又は健康保険の任意継続)

に加入することになります。

厚生年金と健康保険の脱退手続きについては、会社が代わりに行ってくれますので、自分で手続をする必要はありません。

ですが、国民年金と国民健康保険に加入する手続きについては、自分で役所まで出向いて手続きをする必要があります。

それぞれの加入手続について見てみましょう。

1.国民健康保険の加入手続き

国民健康保険に加入する場合、原則として14日以内に手続きを行わなければなりません。

手続き先は住所地の市区町村役場です。市役所・政令指定都市であれば区役所、町や村であれば町役場になります。

この手続には「被保険者資格喪失等証明書」を提出する必要がありますので、退職をする会社から予め入手しておきましょう。

最寄りの日本年金機構の年金事務所でも取得できますが、会社からもらう方が早いです。

その他の必要書類については、役場によって異なることもあります。窓口に出向く前に一度電話で確認しておくと良いかと思います。

なお、健康保険を継続したい場合は最長2年間、継続できます。任意継続を選択する場合は、退職日の翌日から20日以内に住所地を管轄する全国健康保険協会(協会けんぽ)支部に「任意継続被保険者資格取得申出書」を提出します。

健康保険の方が保証が手厚いという理由から任意継続を選択される方も多いのですが、これまで会社が負担してくれていた保険料も自分で賄う必要が出てきます。

個人事業開業後にこの保険料が負担とならないように、十分に気を付けましょう(とは言え、所得が上がりだしたら国民健康保険も負けず劣らず高くなっていきますが・・・)。

2.国民年金の加入手続き

会社員時代は、国民年金と厚生年金に加入していましたが、個人事業主は国民年金のみとなります。公務員から個人事業主になる場合は共済年金からも抜けることになります。

こちらも手続きは簡単で、手続きは住所地の市区町村役場です。退職後14日以内に手続きを行います。

国民健康保険・国民年金いずれの手続きも市区町村役場に申請書が置いてありますので、事前に電話連絡を入れて持参する書類や物がないか確認だけとっておきましょう。

印鑑、年金手帳等が必要な場合もあります。

会社員時代は、健康保険も年金も会社が半分払ってくれていましたが、個人事業主になれば、全て自分で払っていかなければなりません。

まあ、当然言えば当然です。

事業をはじめてすぐに売上が立つか分からないのに、保険料が払えるかどうか不安という方もいらっしゃると思います。思うように売上が上がらない、赤字になった、所得が出なかったといった場合は、保険料の減免措置がありますので、利用しましょう。

国民年金の場合は所得額に応じて免除されますし、健康保険については所得がなければ大した保険料にはなりません。

個人事業主の配偶者はどうなる?

国民年金に加入しなければなりません。

会社員時代は国民年金の第3号被保険者でしたから、保険料を別途納める必要はありませんでした。

会社員時代に配偶者を扶養にしていた(第3号被保険者にしていた)方は、自分の国民年金加入手続きと同時に配偶者の加入手続きも行うことになります。

国民健康保険も同様で、そもそも扶養という制度がありません。

世帯単位の収入で保険料が決まります。配偶者に収入があれば世帯として保険料が上がります。収入が無くても頭数分の保険料が掛かってきてしまいます。

 

 

個人事業主の給与って?所得・利益との違いは?

当ページでは、個人事業主の方、あるいはこれから個人事業主として起業しようとされる方が混同しがちなこの3つの言葉(給与・所得・利益)をわかりやすく解説していきます。

個人事業主の給与は、

売上 - 必要経費 = 給与(=利益=所得)

で求めることができます。

個人事業の場合は、利益・所得がそのまま給与になるというわけです。

サラリーマンの給与とはまったく意味合いが異なってきますね。

※そもそも個人事業主の場合は給与という概念自体が無いのですが(本来的な意味でいえば、個人事業主がスタッフに労働の対価として与えるものが「給与」です)、このページでは個人事業主が自分で自由に使えるお金=生活費を給与とします。

もう一度言いますが、個人事業の場合、基本的には給与も所得も利益も同じです。

例えば、フリーランスのWEBデザイナーの一月の売上と経費が次のような場合、

売上 700,000円
経費 400,000円
(内訳)
・事務所の家賃 70,000円
・水道光熱費 20,000円
・広告費(SEO・リスティング広告等) 100,000円
・打ち合わせの為の食事代 20,000円
・交通費(出張代含む) 40,000円
・通信費(電話代・ネット代・郵送代その他)40,000円
・接待交際費(取引先との食事など)50,000円
・その他の必要経費 60,000円

売上 700,000円 – 経費 400,000円 = 給与 300,000円(=利益=所得)

となります。

先に見たとおり、利益=所得=給与と考えてよいので、このWEBデザイナーの個人事業主としての給与は30万円。

ですが、この30万円を丸々使えるわけではありません。

ここから、毎月の国民年金・国民健康保険を払っていかねばなりません。

ちなみに国民年金は2017年現在、月額16,490円。国民健康保険は前年度の所得額や年齢、自治体によって金額が異なりますが、この売上を継続できたとしたら、年間利益(所得)は3,600,000円ですから、月額で大体25,000~35,000円位になると思われます(厳密には細かな計算が必要で、数字は異なりますのでご注意ください)。

国民年金と国民健康保険料の間を取って、合わせて45,000円ほどです。300,000円から45,000円を引いた25,5000円。

なんだ、経費を40万円使った上で25.5万円も手取りがあるのか、意外と残るじゃん。と思われた方、そんな甘くはありません^^;;;

所得税として納める分を、きちんと置いておかなければなりません。個人事業主の所得税は毎年の確定申告と同時に支払います。

所得税は下記の計算式で求められます。

所得税 = 課税所得 × 所得税率

※課税所得とは、所得から所得控除を差し引いた金額を言います。所得控除には社会保険料控除、生命保険料控除、医療費控除などがあります。課税所得という言葉は確定申告のときにだけ出てくる言葉です。

個人事業主の場合は、自分で使えるお金が先に入ってきて、後から確定申告をしますので、納税資金をわけずにお金を使ってしまうと、翌年度に痛い目に遭います。25,5000円の給与の中から、自宅の家賃や食費・遊興費などの生活費を賄いつつ、納税資金も別で置いておかねばなりませんから、まったく余裕はありませんね。

今回挙げた例ですと、更に売上を伸ばすか、経費を削減するかしないと給与は上がってきません。

個人事業は法人と違って事業と家計の財布を一緒にしてしまいがちですが、出来る限り財布は別にしましょう。財布を別にすれば、毎月生活費としていくらまで使っても事業に影響しないかが一目瞭然になります。

個人事業と言えど、どんぶり勘定ではいけません。必要なときに必要な資金が用意できなければ、倒産・破産の憂き目に遭いかねません。

今は安くて高機能で使いやすい会計ソフトが出てきていますので、適切な資金管理の為にも積極的に活用していきましょう。

今回は個人事業主の給与について見てきました。

ざっくりな説明にはなってしまいましたが、利益=給与=所得と頭に入れておいてもらえれば、わかりやすいのかなと思います。

参考にして頂けると幸いです。