今から出来る!資金繰りを改善する4つの方法
【目次(もくじ)】
- はじめに
- 1.売掛金を回収しよう
|-売掛金は古いものから整理・回収
|-売掛債権の時効に注意しよう
|-決算残高確認依頼書で時効を中断させる
|-あらかじめ与信限度額を定めておこう - 2.在庫の圧縮ができるかを考えよう
|-商品ごとに適切な在庫量を決める
|-適正在庫量の決め方
|-メーカーは生産ラインまで意識を - 3.買掛金を管理しよう
- 4.ファクタリングが活用できないか考えよう
- それでもダメなときは金融機関を頼ろう
|-当座貸越・手形貸付って?
|-いつでも借入申込ができるように、常日頃から資金繰り表を作っておきましょう。
|-政府系金融機関の活用法 - まとめ
はじめに
中小企業やスタートアップして間もない起業家にとって、一番の悩みと言えば「資金繰り」でしょう。
むしろ、資金繰りのことを考えない日はないくらいだと言っても過言ではないでしょう。
とはいっても、資金繰りは一朝一夕でよくなるものではありません。
日頃からの経営努力の積み重ねでよくしていくものです。
資金繰りを改善するための方法を4つに分けて詳しく解説していきます。
まずは、資金繰りはどうすれば改善できるかを簡単にお話ししましょう。
資金繰りとは、「運転資本の確保」と言い換えることができます。運転資本とは「営業活動に投下される資本」とされます。
具体的には、材料や商品の仕入代金を支払う時から製品や商品を販売した代金を回収するまでに必要な資金と言うことができるでしょう。
これを単純な計算式にすると、「売掛金+棚卸資産-買掛金(※)」となります。
これが準備しなければならない運転資本となるということは、次のようにすれば運転資本が減少し資金繰りを改善させることができると言えます。
※厳密には「その他の流動資産(負債)」を含めるなどされますが、ここでは説明のため簡略化しています。
- 売掛金を減らす
- 棚卸資産を減らす
- 買掛金を増やす
この3つを実現することができれば資金繰りを改善させることができるわけですが、言葉でいうのは簡単です。
それでは、具体的な方法を順に見ていきましょう。
1.売掛金を回収しよう
まずは「売掛金の回収」を考えましょう。
得意先からの入金があるまでは商品を渡しただけで、まだお金を受け取っていません。
得意先からの支払いを受けることでようやく、取引が最後まで無事に終了したと言えます。
では、回収するまでに気をつけなければならないことを順に説明していきましょう。
①売掛金は古いものから整理・回収
商品を販売した後、締切日に請求書を発行します。その分を翌月などに支払ってもらうことになります。
ただ、支払日の設定によっては、複数の締切日分の売掛金が発生する場合があります。また、支払いの遅延で売掛金が溜まってしまう場合もあるでしょう。
そんな場合は、「古い売掛金から回収する」ことを徹底しましょう。例えば、次のような場合を考えてみましょう。
- 1月分の売掛金:100,000円
- 2月分の売掛金:80,000円
- 3月上旬に、80,000円の入金があった
この場合、得意先は1月分の支払いを忘れているのか「2月分の支払い」のつもりで入金してきたのかもしれません。
けれども、この分は「1月分の売掛金の一部が入金された」と処理しましょう。
その上で、「1月分の残り20,000円と2月分の80,000円」を残りの売掛金とします。その理由は、売掛金には「時効」があるからです。
②売掛債権の時効に注意しよう
売掛金には2年の時効があります。
商法には商事債権の時効は5年と定めがありますが、商品の製造・販売による売掛金はこれには該当しないので注意しましょう。
2年の時効があるということは、支払われないまま2年が経過した売掛金は、得意先が時効を主張すれば支払われなくなってしまうということです。
時効を過ぎても請求することはできますが、時効を主張されれば回収することはできないのです。
そこで必要なのが、「時効の中断」です。
時効を中断させることができれば、2年間の時効期間が進行するのを防ぐことができます。
裁判をすれば中断されるのですが、ここではそれ以外の方法を紹介します。
裁判以外で時効を中断させるためには、「売掛金があることを債務者に承認させること」が必要です。
売掛金の一部でも支払ってもらう、支払いを約束する書類にサインをしてもらうなどすれば時効が中断されます。
その場合、支払いやサインをした日からあらためて2年間の時効をカウントすることになります。
③決算残高確認依頼書で時効を中断させる
とはいえ、支払いを約束する書類を作成してサインをしてもらうのは、得意先との関係を考えるとためらわれるかもしれません(本来、時効を中断させなければならないような得意先と取引を続けるメリットはありませんが)。
そこで便利なのが「決算残高確認依頼書」です。
これは、その名の通り、ある期日における売掛金などの金額を確認しあうための依頼書です。
「決算にあたって売掛金の残高確認を行っている」という名目で依頼することができます。
得意先側から見れば、「買掛金の残高」を確認することになります。
その内容を確認してもらったうえで、「○年△月分の未払残高が□円あることに相違ありません」と書かれた書類に記名押印してもらうことができれば、得意先が債務の承認を行ったことになります。
これで、時効は実質的に「記名押印した日から2年間」延長されることになります。
④あらかじめ与信限度額を定めておこう
資金繰りに支障をきたさないように回収や時効に気をつかうことも大切ですが、それ以前に、トラブルが起きにくいように工夫しておくことも忘れてはいけません。
売上が増えることはよいことなのですが、それは相手に支払能力がある場合の話です。
あらかじめ、得意先の支払能力を会社の規模やビジネスモデルから推測して、与信限度額を決めておきましょう。
売掛債権が限度額を超えると「それ以上売ってはいけない」とストップをかけることができます。
営業担当者や得意先からは不満が出るかもしれませんが、トラブルを未然に防ぐためだと割り切りましょう。
設定した与信限度額が簡単に変えられるのであれば、抑止力としての効果が期待できなくなってしまいます。
ただ、限度額の設定に答えがないのが難点です。
低くしすぎると商機を逃し、高くしすぎるとトラブルを未然に防ぐ効果が期待できません。
よりベストに近い金額設定をするのは簡単なことではありません。手間も多くかかります。
そこでおすすめなのが、全得意先ではなく、一部の得意先にだけ与信限度額を設定するという方法です。
支払いが遅れがち、受け取る手形のサイトが長い、支払条件が悪化したなど、回収に不安がある得意先をピックアップして対策をすることができます。
⑤弁護士に依頼した場合に費用や手続きはどうなる?
いろいろと売掛金を回収する努力をしたもののうまくいかない場合、弁護士に依頼して法的に解決させる方法があります。
ただ、弁護士に依頼するのであれば、その手続きや費用について理解が必要です。
弁護士を介して売掛金を回収しようとする方法には様々なものがあります。
訴訟だけでなく交渉・督促・仮差押などがありますが、それぞれで費用も異なります。
こういった手続きは時間がかかることから、弁護士によっては「顧問契約」しないと着手できない場合もあります。
そうすると、毎月顧問料が発生します。
また、成功報酬についても注意があります。
「得意先が支払いを了承した」、「裁判で判決が出た」といった時点で成功報酬が発生する条件となることもあります。
その場合、得意先に資産がなく、現実に回収できなかった場合でも、弁護士に報酬を支払わなければならないのです。
費用や手間を考えると、弁護士に依頼するのは最後の手段と考えておくべきでしょう。
そうなってしまわないように、日頃から売掛金の管理をしっかりと行うようにしましょう。
2.在庫の圧縮ができるかを考えよう
商品の在庫は、会社の大切な資産です。けれども、そのままでは1円にもならなりません。
それどころか、仕入れや生産にコストがかかっているため、「在庫がある=資金繰りにマイナス」なのです。
そこで、同じ売上高でも在庫量をできるだけ圧縮しながら事業を行えるかが、資金繰りを改善するポイントです。
①商品ごとに適切な在庫量を決める
在庫を圧縮するうえで大切なのが、個別の商品ごとに考えることです。
取り扱っている商品の中には、販売量が多いものもあれば少ないものもあります。
生産や仕入のロットやリードタイムも様々です。各商品の販売・仕入の状況を考慮しながら、それぞれのできるだけ少なくした適正在庫を設定しましょう。
こういったことを意識せずに在庫管理をしていると、資金繰りへの影響が大きくなってきてしまいます。
得てして、「お客様が注文してきたときに品切れとならないように」と在庫を過剰に持とうとしてしまうからです。
支店や営業所の倉庫を複数持っている会社の場合は、その分だけ影響も大きくなるので、充分に注意して管理しなければなりません。
②適正在庫量の決め方
在庫を圧縮しすぎてしまうと、在庫切れで販売機会を失ってしまいます。
そうならないようにする在庫量を決めるにはどうすればいいのでしょうか。
そのために、まずは、販売実績を分析しましょう。平均的な販売量だけでなく、多い場合に1回でどれくらいのロットで注文が入るかも確認しておきましょう。
次は、仕入や生産の状況を確認します。ロットとリードタイムをチェックして、在庫切れを起こさないような適正在庫量を決定します。
あくまで一例ですが、次のような商品があったとして、適正在庫量を考えてみましょう。
販売量:1か月あたり1,500個
(大半の得意先は100個での注文だが、300個単位での大口注文をする得意先がある)
仕入ロット:200個(注文から納品までのリードタイムは10日)
この場合、仕入ロットが200個のため、在庫を200個に抑えることもできます。しかし、300個単位での注文が入った場合には対応できません。
では、2ロット分の400個を在庫としてみた場合はどうでしょうか。
実は、これでも在庫は足りません。
1か月の販売量が1,500個ということは、仕入のリードタイム10日の間に平均して500個(1,500個÷30日×10日)出荷しなければならないのです。
ということは、最低でも3ロット以上の在庫を持っておく必要があります。
そこに、注文が集中した場合などリスクを考えて、「最大1,000個の在庫を持ち、600個になった時点で発注をかける」といった適正在庫のルールを作ることができます。
③メーカーは生産ラインまで意識を
メーカーの場合は特に在庫が多くなりがちです。
製品在庫だけでなく、仕掛品や材料の在庫もあるからです。そのため、製品の在庫を圧縮するだけではあまり資金繰りが改善しません。
そこで、上記の在庫量の圧縮に加え、生産ラインの再構築まで意識することが必要です。
これまで一度仕掛在庫にしていた製造過程を、製品まで一気に生産できる体制をとることができれば、仕掛品が必要なくなります。
3.買掛金を管理しよう
買掛金の支払いを遅らせることができれば、資金繰りを改善させることができます。
資金繰りの悪化は、売掛金が発生して現金が入るよりも、支払いが先になってしまうことが最大の要員です。
ですから、売掛金の早期回収ができなかったとしても、それよりも支払いを遅らせることができれば、資金繰りの問題は発生しません。
要するに、1ヶ月後に払っていたものを2ヶ月後や3ヶ月後の支払いにできれば、資金繰りは改善するのです。
例えば、あなたの会社でAというベビー商品の販売を開始した場合。
Aを売ってから現金が入るまでの期間→30日
そのための仕入れからの支払い期間→20日
上記サイクルで販売開始。
この場合、毎月10日間は資金が枯渇します。商品を売れば売るほど、この期間内の資金繰りは厳しくなります。
仮に、この商品の仕入れから支払いまでの期間を40日にしてもらった場合、逆に、10日間、資金に余裕ができます。こうなれば、売れれば売れるほど、この期間の現金は増えていきます。
新規の取引先と契約を結ぶ場合、後者(支払期間40日)の方法で行えば、資金繰りで頭を悩ませる必要はなくなります。
しかし、このやり方は既に契約をしている既存の取引先に対しては、おすすめしません。
支払日や手形サイトの延長をお願いした場合、仕入先から「業績が悪いのだろうか?」、「資金繰りに苦労しているんだな」と思われてしまいます。
仕入先同士のつながりがある場合には、悪い噂につながってしまいかねません。
仕入先から、支払いを遅らせることを了承する条件として、与信限度額の引き下げや値上げなどを突き付けられてしまうかもしれません。
このように、買掛金の支払いを遅らせることはデメリットが大きいあるため、可能な限り、売掛金と在庫の管理で資金繰りを改善するのが望ましいと言えます。
4.ファクタリングとは?
こういった対策をしたうえで、さらに資金繰りを改善させたいのであれば、「ファクタリング」という方法があります。
ファクタリングとは、自社の売掛債権を一定の手数料を差し引いて買い取ってもらうというものです。
①ファクタリングの活用法
通常、請求をしてから入金まではタイムラグがありますが、ファクタリングを活用すれば請求後すぐに現金化することができます。
そのため、得意先からの支払サイトが長い場合や銀行からの融資が受けられない場合などに効果的です。
②ファクタリングの手数料
ファクタリングには2種類あり、手数料も大きく変わってきます。
ファクタリングを行うことを得意先に通知する「3社間ファクタリング」では手数料が低く、通知しない「2社間ファクタリング」では手数料が非常に高くなります。
売掛先の与信状態によるのですが、「3社間」では1~5%程度、「2社間」では10~30%程度と言われています。
3社間ファクタリングでは手数料が低いものの、得意先にファクタリングを行うことが伝わるため、「資金繰りに困っている会社ではないか」と思われる可能性があります。
しかし、得意先側から考えれば、仕入先が倒産しても自社に貸し倒れは発生しません(仕入先がなくなって困るということはありますが)。
そう割り切って、手数料の低い3社間ファクタリングを選択する方法もあるでしょう。
③手形割引との違い
ファクタリングと手形割引の一番の違いは、貸借対照表への影響です。
ファクタリングは売掛債権を買い取ってもらっているため、売掛金がなくなり現預金に変わります。
一方の手形割引は流動負債が増えてしまいます。そのため、手形期日が到来するまで、会社の財務が悪化して見えるというデメリットがあります。
ファクタリングを活用して資金繰りを改善した上で、銀行や日本政策金融公庫からの借入を行うのも一つの方法です。
それでもダメなときは金融機関を頼ろう
ここまで、資金繰りを改善する為の方法を見てきました。
これらの方法で資金繰りの改善が望めない場合は、金融機関からの借入で対応することになります。
とは言え、金融機関から借りると一口にいっても簡単ではありません。資金繰りが悪化した場合に金融機関から借りる資金を「つなぎ資金」と言います。
つなぎ資金を借りるには、日頃からそれなりの準備と体制を組織として整えておかなければなりません。
具体的には、借入先の金融機関に多様性をもたせておく、日頃から金融機関と取引を行い協力関係を築いておくことです。
資金繰りが悪化したからといって、何の関係もない銀行に飛び込んでいっても相手にされません。
もっとも銀行もビジネスでお金を貸してますから、定期預金口座の一つでも作っておけばまた別かもしれませんが、基本的には、新規取引でかつプロパー融資は難しいとお考えください。
地方銀行ならまだしも、大手都市銀行だと更に難しいでしょう。その点、会社の近くにある地域密着の信用金庫や信用組合などであれば親身になってくれますから、積極的に取引をしておきべきと言えます。口座を作ってておいて損はないでしょう。
当座貸越・手形貸付って?
つなぎ資金の調達方法の一つに「当座貸越」がありますが、これも急な資金調達には向いています。
その他の方法としては、上記のファクタリングの他、「手形割引」「手形貸付」などもあります。
現在、金融機関からの短期借入金が複数ある場合は、長期借入金にまとめることができないかなども検討しましょう。
いつでも借入申込ができるように、常日頃から資金繰り表を作っておきましょう。
資金繰り表という言葉自体は聞いたことがある方も多いと思います。
資金繰り表は、現金の流れを数ヶ月に渡って把握するための資料になります。資金繰り表には損益計算書や貸借対照表には現れてこない実際の現金の流れが記載されます。
金融機関につなぎ資金の借入を申し込む場合、決算書類(損益計算書や貸借対照表)は必ず求められますが、合わせて資金繰り表も提出すれば、資金繰りの透明性が担保されることになりますので、審査も通りやすくなります。
顧問税理士に頼んで、資金繰り表を常日頃から作っておけば、急な資金調達にも対応できます。
政府系金融機関の活用法
以上は民間の金融機関向けつなぎ資金の調達法になりますが、この他にも政府系金融機関がありますから、こちらも合わせて利用できないか、窓口で相談してみましょう。
政府系金融機関で代表的なところと言えば、日本政策金融公庫・信用保証協会・商工中金になります。政府系金融機関は普段から取引がなくても借入が可能です。
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5.まとめ
資金繰りの改善は簡単ではありません。
それに、一時的に改善したとしても、会社が成長するにつれて必要となる運転資金も増加するため、再び資金繰りを改善させなければならないときも来るでしょう。
しかし、「売掛金の回収」や「在庫圧縮」といった方法で資金繰りを改善していくことは、「優良な得意先と付きあうことができる」、「在庫の回転率が高く効率的な経営ができる」といったメリットがあります。
これはどんな経営者でも達成したいことなのではないでしょうか。
じっくり時間をかけて資金繰りを改善する努力をしていくことが、より力強く成長できる道を切りひらく原動力となるのです。
【保存版】売掛金の未払いが発生した場合に行う11の対処法
はじめに
商取引では現金取引は稀で、「掛」での取引が大半を占めています。
事業を継続していけば当然、取引先の数も増えていきます。全社から滞りなく売掛金を回収できればそれに越したことはありませんが、取引先の増加に比例して、売掛金の支払い遅延や未回収もまた増えていきます。
ある意味仕方のないことではあります。
ですが、個人事業や中小零細企業の場合、一つひとつの取引金額は少ないかもしれませんが、たった一件の売掛金の未回収によって資金繰りが急激に悪化し、最悪、それが元で倒産の憂き目に遭うケースもあるのです。
売掛金は時間が経過するほど回収する事が難しくなっていく傾向にあります。
取引先に何らかの事情があるから支払いがされない訳ですが、入金が滞ったときには素早く対応することが大切です。
当ページでは、「売掛金」の支払いが滞ったとき、遂には焦げ付いてしまって回収できなくなってしまったときの対処法について、解説していきます。
ぜひお役立ていただければと思います。では、ご覧ください。
【目次(もくじ)】
- 入金が滞ったとき
|-1.返済計画を立ててもらう
|-2.消滅時効に注意しよう - それでも事態が進展しない場合は?
|-3.内容証明郵便を出す
|-4.支払督促を出す
|-5.訴訟若しくは少額訴訟を起こす - 取引先が倒産してしまった場合の債権回収の方法
|-6.売った商品を取り戻す
|-7.代物弁済してもらう
|-8.債権譲渡する
|-9.相殺する
|-10.仮処分、仮差押する - 税金上の貸倒れ処理について
|-11.貸倒れ損失を計上して税金を安くする方法 - まとめ
入金が滞ったとき
支払い期日が過ぎても取引先からお金の振り込みがなかった場合、
「これまでの付き合いがあるしあまり大げさには騒ぎたくない」「いますぐ請求したいが、できるだけ相手の気持ちを損ねたくない」
と思う気持ちもあるでしょう。
では、いざ入金が滞ったときはどのように対処していけばよいのでしょうか?
どのような方法があるのか、順に見ていきましょう。
まずは取引先企業の様子を伺う
請求書を発行して取引先から入金されるのは1ヶ月後であったり、月末締めの翌月末といった支払いサイクルである事がほとんどです。
ですので、入金が確認できないという事が数ヶ月先に分かることもあります。
入金されていないからといってすぐに督促をするのではなく、まずは発行した請求書の確認、そして取引先に対して電話やFAX・メール等で現状の確認を行いましょう。
それと同時にこちらから発行した請求書に、請求金額や支払方法、支払期限の書き間違がなかったかも確認してしましょう。
もし、こちら側に原因があったのに督促をするようなことがあっては、信用失墜です。取引先との信用問題にもなりかねません。
請求書が単に届いていなかったり、先方の経理担当者が請求書を紛失していたなんてことも実際によくある話です。
うっかりと支払いを忘れていたような場合であれば、たいていは通常の支払いサイクルより早めて振り込みをしてくれるなど、それなりの対応をしてくれる会社もあります。
しかしながら、業績悪化等により、故意に支払いが行われなかったのであれば、取引先の様子を伺いながら支払いを促すしかありません。
返済計画を立ててもらう
請求書が届いていたのにも関わらず、取引先の一方的な理由により支払いがされていなかった場合、いつまでに支払ってもらえるかが問題です。
期限を決めて振り込むことを約束してもらえれば一番良いのですが、ある程度取引先の希望をのむ形になるかもしれません。
支払いがされなかった時は、初期行動が重要です。
例えば取引先の資金繰りが厳しい状態に陥っていて、債権者が他にもある場合は、自分への支払が後回しにされる可能性もあります。
請求額全額の支払いが困難なようであれば、分割にしたり、用意できた金額だけでも先に振り込んでもらうなどの交渉を行い、返済計画を立ててもらいましょう。
支払われない事も考えて、できれば口頭ではなく、書面、メール等でその内容を記録しておく方が良いでしょう。
また、単発での取引先であれば支払いが遅れただけで済むかもしれませんが、今後も継続して取引を行っていくのであれば、支払いされるまでは念のため新たに商品を出荷しない、納品しない、納品済みの商品があれば回収する等の手段も講じていく必要があります。
現場サイドでは、「御社からの支払いが滞っていますので、入金して頂かないと納品は出来ません」と毅然と伝えるのは商取引では当然なことです。
取引先がすでに返済計画さえ立てられないような状況であれば、法的手段を取らざるをえなくなります。
訴訟も視野に入れて、今までの納品書や請求書等の資料、経緯が分かるメールやFAX、電話でのやり取りはメモをする等して、全てまとめて保管しておくようにしましょう。
消滅時効に注意しよう
売掛金は時効により消滅します。
商事債権の消滅時効は5年、商品の売掛金債権は2年、宿泊料・飲食料などは1年です。
支払期限が到来した日から期間内に取引先から返済が一切ないと消滅時効が成立します。
そして取引先(債務者)が時効を援用すれば債権は消滅してしまいます。
債権を消滅させないためには、裁判所に訴訟を起こして時効を中断する必要があります。
あくまでも裁判所に対して請求しますので、例えば取引先に定期的に請求書を送っている、内容証明郵便を出している、これだけでは時効を中断したことにはなりませんので注意してください。
それでも事態が進展しない場合は?
単純に入金が遅れているだけならいいのですが、どうしても事態が進展しない場合、今後は様々な手段を利用して回収を試みることになります。
しかしながら、取引先から数ヶ月、数年支払われない状態が続いているのであれば、例えどのような方法で請求しても支払ってもらえる可能性は低いでしょう。
最終的には裁判になりますが、それまでは状況に応じてできる限りの事を試してみましょう。
内容証明郵便を出す
日常的に内容証明郵便を利用することはほとんどないと思いますが、それほど難しいものではなく、誰にでも簡単に利用することができます。
インターネットで検索すると内容証明書の書き方、体裁、字数・行数等の作成方法がたくさん出てきますので、それらを参考にして作成することができます。
内容証明郵便には、未払の売掛金があること、期限内に支払うように催促すること、もし支払いが行われないときには法的手段に出ることなどを記載しておきます。
内容証明郵便を送ることで相手の対応が変わることもありますので、より効果を期待するのであれば弁護士さんへ依頼することも考えましょう。
ただし、最近ではよく知られるようになっていますが、内容証明郵便には法的効力はありません。
実際、内容証明郵便を送っても相手が受け取らないこともよくありますので、無意味ではないかと思う人もいると思います。
しかしながら、相手側の対応次第では裁判にしますよというこちら側の意思表示を明確にするための重要な方法です。
過度の期待はできませんが、いきなり裁判を起こすことがためらわれるのであれば、内容証明郵便を出してみて相手の出方を伺うのも良いでしょう。
そして内容証明郵便を出してから6ヶ月以内に裁判所に訴訟を起こせば、時効を中断させることができますので、その意味でも出しておいて損はありません。
支払督促を出す
内容証明郵便よりも一歩踏み込んだ手続きで簡易裁判所に申立てる「支払督促」というものがあります。
支払督促とは、債権者から提出された書類を裁判所の書記官が審査して申立内容に問題がなければ、債務者に対して支払い命令を出してくれるという手続きです。裁判所からいきなり督促状が送られてきますので、債務者が支払いに応じる可能性が高くなります。
支払督促に必要な申立書は、裁判所のホームページからダウンロードできますし、申立ては債務者の住所地を管轄する簡易裁判所に郵送で行うこともできますので、裁判所に出向く必要がありません。
裁判所は債権者からの申し立てのみで判断します。債務者からは事情を聞きませんので、不公平にならないように債務者は異議申立てを行うことができます。
債務者がお金を支払えばめでたく解決ですが、異議申立てがあった場合は民事訴訟に移行します。
債務者から異議申立てもなく、お金も支払わない場合は、債権者は2週間を経過した日から30日以内に仮執行宣言を申し立てることができます。
その後も債務者から支払いがされない、異議申し立てもない場合は、最終的に強制執行を申立てることができます。
「支払督促」を利用するには、債務者と債権者がお互い債権の存在を認識しており、確定した金銭債権であることが前提です。
もし、債務者が最初から異議申立てを行う可能性が高い場合は、最初から民事訴訟を行った方が良い場合もあります。
訴訟若しくは少額訴訟を起こす
裁判所で行われる民事訴訟には、通常訴訟の他に少額訴訟があります。
通常訴訟は、請求金額が140万円以下であれば簡易裁判所、140万円を超える場合は地方裁判所で行われます。
少額訴訟は60万円以下の金銭債権の支払いを求める訴訟に限った裁判で、原則として債務者(被告)の住所地を管轄する簡易裁判所に訴えることになります。
少額訴訟を起こす際に必要な訴状用紙は簡易裁判所の窓口に備え付けられていますし、裁判所のホームページからダウンロードすることもできます。
証拠となる資料を添付して提出し、問題なく訴状が受理されると裁判所から債務者(被告)に対して訴状、期日呼び出し状、証拠書類が送達されます。
相手側からするといきなり裁判所から通知が来て、訴えられている事が初めて分かりますので、裁判はないだろうと甘く見ている相手に対しては、非常に効果的な方法です。
少額訴訟は原則1回の審理で、双方の口頭弁論が行われたその日のうちに判決が下されます。
審理の場での話し合いにより和解が成立することもあります。何度も裁判所に足を運ぶ必要がなく、通常訴訟よりもはるかに簡易的な裁判で訴訟費用も安く(数千円から1万円前後)法律知識がなくても簡単に利用することができます。
ただし、債務者(被告)には少額訴訟ではなく通常訴訟にするように裁判所へ求める権利がありますので、被告が訴訟内容に納得をしていない場合は通常訴訟に移行され、即日判決とはならず少額訴訟に要した時間が無駄になってしまいます。
もし、相手側と争う可能性があれば初めから通常訴訟にするほうが二度手間になりません。
通常訴訟になるとさすがに専門的な法律知識が要りますので弁護士さんを雇うことになると思います。
しかしながら、弁護士費用が掛かること、判決が出るまでに長期にわたる可能性がある等の理由から費用対効果が合わないと厳しいのが現状です。
取引先が倒産してしまった場合の債権回収の方法
取引先が倒産してしまって売掛金が回収できなくなることは、商売を続けていく上で発生してしまうものです。
もはや全額回収することは困難かもしれませが、倒産による債権回収の方法はいくつかありますので、専門家に依頼することも検討しながら少しでも多く回収できるように行動していきましょう。
売った商品を取り戻す
売った商品が「物」である場合、まだ取引先の手元に商品が残っている場合は代金未払いを理由にその商品を返してもらうことができます。
ただし、例え自社の商品であっても回収するには相手の承諾が必要です。勝手に持って帰ってはいけません。
なぜなら、商品が相手の手元にある状態=相手が物を占有している場合には、その占有権を奪う行為が「窃盗罪」に該当する可能性もあるからです。
これは商品の売買とは別問題で代金が未払いであっても関係ありません。
そして、相手の会社や倉庫が分かっているからといって、無断で入って持ち出すような行為は建造物侵入罪にも該当しますので、絶対してはいけません。
もし相手が商品を返さない場合は、相手の意思に反してむりやり取り戻すことはできません。
相手側立会の元、商品引き上げること、あくまでも相手の協力が必要ですので、承諾を得られたなら後々問題にならないように合意書や確認書等を作っておくとよいでしょう。
代物弁済してもらう
代物弁済とは、例えば商品代金が本来であればお金で支払われるところ、お金に変わって物品を渡すことにより返済することをいいます。
相手側がお金で支払う能力がない場合等、債権回収の手段としてもよく行われます。
車、宝石、貴金属等の動産、土地や建物などの不動産、売掛金債権などの債権等、相手側が所有している資産を譲り受けることになりますので、受け取る物の価値についてはしっかりと評価を行う事が大事です。
不動産の場合は所有権を移転させる手続きが完了しないと弁済を受けたことにはなりませんので、手続きが完了するまでに不動産の名義を第三者に移転されてしまわないように所有権移転登記の仮登記を行う等の対策が必要です。
また、所有権移転登記に掛かる費用も発生しますので、不動産を代物弁済される場合は専門家と相談することをお勧めします。
基本的に100万円であれば100万円の等価資産で弁済しますが、お互いが合意していれば債権額に満たない資産を弁済にあてても構いません。
逆に債権額よりも価値が高い資産で弁済される場合は、債権者は差額分を返済することになります。
特に不相当に高額な資産であった場合は、代物弁済そのものが無効とされるおそれがありますので、安易に考えないようにしましょう。
債権譲渡する
債権譲渡とは、その名の通り「債権」を第三者に「譲渡」することです。
実は債権は譲渡禁止特約がある場合などを除いて原則自由に譲渡することができるのです。
例えば、A社が取引先のB社に対して売掛金100万円の債権を持っていたとします。
この売掛金債権を第三者のC社へ売ることができます。
債権譲渡は、債権者であるA社と債権を譲り受けるC社間の合意があれば成立します。
債権を譲渡しても債権の内容に変わりはありませんので、B社からすると支払い先がA社からC社変わっただけです。
ただし、債務者であるB社が本来の支払い先であるA社に支払ったり、A社がC社以外にも二重に債権を売る恐れがあることから、A社からB社へ債権を譲渡する旨の通知またはB社の承諾が必要です。
このように債権は譲渡することができますが、実際に自ら手続きを行うには不安があるかと思います。
そこで「ファクタリング」という方法を利用することが考えられます。
「ファクタリング」とは、会社が持っている売掛金や手形などの債権を専門の事業者へ売ることで債権を現金化して資金調達することをいいます。取引先の支払いサイクル前に早期に現金化できる手段として、ファクタリングはよく用いられています。
この売掛金や手形などの債権の買い取りを専門に行っている会社を「ファクタリング会社」といい、銀行や信販会社等が設立したファクタリング会社、大手メーカーやゼネコンが設立したファクタリング会社、独立系のファクタリング会社などが数多く存在します。
ファクタリングを利用するには、当然審査が行われますので回収の見込みのない売掛金債権であれば売れませんし、手数料が掛かりますので100万円の売掛金債権が100万円で売れるのではありません。事前にしっかりと契約内容を確認して利用することを考えましょう。
相殺する
相殺とは、簡単に言うとお互いの貸し借りをゼロにしましょうという事です。
例えば、A社がB社に対して100万円の売掛金債権を持っている(→B社がA社に100万円を支払う)、B社もA社に対して同額の売掛金債権を持っている(→A社がB社100万円を支払う)、このような場合にお互いの支払いを帳消しにしましょうと意思表示をするだけで精算することができます。
お互いが相手に対して同じ債権を持っている場合、わざわざ代金を支払うのは手間ですよね?
ですので、このような場合はどちらかからの意思表示だけで債権を消滅させることができるのです。
同じ金額分だけ消滅しますので、同じ金額でなければ単純に差し引き額が残ります。
A社の持っている債権が200万円であった場合は、B社には差額の100万円を支払う義務が残ります。
相殺は相手の同意が必要ないので、簡単に行える債権回収方法の一つです。
原則、双方の支払い期日が到来していることが前提ですが、自分が持っている債務については支払い期日前であっても構いません。
取引先が倒産した場合、もはや資金繰りは厳しく、現金で回収することは困難になります。
相手側がこちらに対する債権を有している場合は、相殺をすることで現実に支払うを受けることはないですが、債権を回収したのと同じ効果を得ることができます。
相殺はどちらか一方の意思表示のみで行えますし、実際にお金の支払いがなくなりますので、相殺をした事の証明として内容証明郵便で「相殺通知書」を送るのが一般的です。
「相殺通知書」で検索すると書式がたくさん出てきますので、参考にするもの良いでしょう。
仮処分、仮差押する
取引先から売掛金がまったく支払われなくなった場合、最終的には裁判を起こして相手の財産に強制執行をして回収することになります。
しかしながら裁判は早くても数ヶ月かかります。いざ強制執行する段階で支払うだけの財産がない可能性もあります。
そうなると裁判をした事が無意味になります。
そこで、本来の裁判を起こす前に相手が保有している財産を特定して、その財産を一時的に差押えるための申立てを裁判所に対して行い、裁判所に申立てが認められるとその後の裁判で勝訴判決を得られれば、差押えた財産を強制執行して回収することができます。
これを「仮差押」といいます。
仮差押えの対象となる財産は、不動産や動産、銀行預金、売掛金などの債権があります。
また、対象が売掛金などの金銭債権以外の「商品(物品)」などであった場合は、その商品を第三者に売ったり、処分されたりするのを防ぐため裁判所に一時的に処分したりするのを禁じることを申立てることができます。
これを「仮処分」といいます。
「仮差押」は金銭債権を回収する目的として行いますが、「仮処分」は金銭債権以外の回収を目的として行います。
どちらも「民事保全」と呼ばれる手続きの一つで専門的な知識が必要ですので、民事保全を専門にされている弁護士さんに依頼されることをお勧めいたします。
税金上の貸倒れ処理について
貸倒れ損失を計上して税金を安くする方法
法的手続きを行ったところで、「無い袖は振れない」と開き直って一切のお金を払う意思がない場合は、結局は回収できません。
取引先の倒産などで明らかに債権の回収ができないと見込まれるものについては、その損失金額を会計上の費用として損金処理することができます。
売掛金として計上していたものを「貸倒損失」とすることで損金扱いになり、節税効果が見込まれます。
例えば、B社に対する売掛金100万円が全額回収できない場合、「売掛金」→「貸倒損失」として計上することで費用が100万円分増えることになりますので、その分所得が減ります。所得が減ると税金も減るという仕組みです。
ただし、ただ返済されないというだけでは簡単に貸倒損失とすることはできません。
何でもかんでも貸倒損失として計上できるのであれば、取引先が倒産したように見せかけて脱税に使われるかもしれないからです。
貸倒損失は税務調査において必ず調べられる項目であるといわれていますので、税法上の要件や計上するタイミングなど、処理方法については事前に必ず顧問税理士さんへ相談してください。
まとめ
以上、当ページでは、売掛金に貸倒れが起きそうになったとき、また、実際に貸倒れが起きた場合の対処法について見てきました。
いかがでしたでしょうか。
血の滲むような企業努力で上げた大事な売上。未回収は絶対に避けたいところではありますが、こればかりは相手があることですから、万事上手く解決するとは限りません。
文中にも書きましたが、売掛金を回収できるかどうかは自社がどれだけ早期に対応できるかにかかっています。
関係取引先と普段から良好なコミュニケーションを取っておくことで、売掛金未回収という大きな痛手を事前に防げる場合もあります。
日頃から取引先との関係を良くしておき、たまには取引先へ実際に足を運んで情報交換などを行うのも一つの方法でしょう。
面倒がらずにこのようなことも行っていれば、取引先の小さな変化にも気づけるようになります。
売掛金が回収できなければ最悪の場合は黒字倒産もありうるのです。小さなことでも大事な情報をキャッチできるアンテナを常に張っておくこともまた経営者の仕事といえるのではないでしょうか。
役員借入金がある場合の資金繰りの改善方法
中小企業によく見られる資金繰りの問題点
中小企業は、限られた資産や財務状況の中で、資金調達を行いつつ、経営を続けていく必要があります。
どうしても資金調達がうまく行かない、金融機関から融資を受けられずに厳しい状況にある、資金繰りがショートしそうだとかいった場合には、その会社の代表者や役員から、資金を調達するケースも見られます。
簡単に言えば、役員自ら会社にお金を貸すわけです。代表、つまり社長が個人的なお金を会社を貸し付けるのですが、この方法は決して珍しくはなく、多くの中小企業で活用されています。
しかし当然ですが、こうしたケースはできるだけ、避けたいものです。
公私混同を避ける意味もありますし、会社の関係者が個人的なお金を投入しないと経営が成り立たないようでは長期的・継続的な事業も見込めません。
また、役員借入金には、色々とデメリットもあります。
役員借入金のデメリット
金融機関の評価がマイナスになります。
役員が個人的なお金を投入しないと経営を維持できない、さらには、自己資本率が低いという評価も受けてしまうのです。
もし会社にお金を貸している役員が亡くなってしまった場合には、相続と相続税が発生するといったデメリットもあります。
役員借入金の対策方法と資金繰りの改善方法
債務免除とは?
では役員借入金がある、そして、その比率が高い場合には、どういった対策方法があるのか?
もっとも極端な方法としては、まず、「債務免除」という選択肢があります。
会社にお金を貸している社長・役員が「もう返済しなくていいよ」と、債務そのものを免除するわけです(債権放棄とも言います)。
一気に役員借入金を解消する方法として、もっとも理想的なように思えますが、必ずしももっとも使い勝手が良とはいえない面もあります。
なぜか。免除することで会社に債務免除益が発生するからです。
背負っていた借金が免除されて利益を得ることができた、というわけですが、その利益に対して税金が発生するのです。
つまり会社の手元にお金がない状態にも関わらず、不用意に免除してしまうと、税金を支払うお金を確保できなくなってしまう恐れがあります。
経営が厳しい、赤字に転落しているときほど注意しなければならない選択肢といえます。
DESとは?
もうひとつ方法として「DES(Ded Equity Swap)」という選択肢もあります。
これは、債務を株式化すること、つまり役員借入金を資本金に振り替えてしまう方法です。
これによって、事実上免除を受けたのと同様の効果を得つつ、自己資本比率を高めることができるなど、さまざまなメリットを得ることができます。
また、貸した社長や役員の側も業績がアップすることによる給料や株価のアップなどによって利益が得られるという点で免除よりも優れた選択肢となります。
ただこの方法では資本金に振りかえる際には役員借入金を時価で評価するなど、事前の準備や対策が必要です。
また、株式会社や合同会社がこの方法を利用する場合は管轄の法務局での増資手続きが必要になります。登録免許税などの法定実費もかかりますので、注意しましょう。
DESについて更に詳しく見たいという方はこちらも参考にしてください。→増資手続きについて