ストック・オプション+自己株式の取得+経営承継円滑化法に基づく遺留分に関する民法の特例

新株予約権(ストックオプション)とは?

前もって決められた価格や条件で一定期間内に、会社の新株式や自己株式を購入できる(または提供を受ける)権利のことを、「新株予約権」といいます。

その中でも、会社に所属する取締役や従業員などにその権利を与えることを「ストックオプション」といいます。株価が上がれば利益も大きくなり、それをボーナスとして利用する会社も増えています。

ストックオプション発行の意味

新株予約権で購入できる株式の価格は、通常、現在の株価より安く設定されています。自社の株を安価で購入し、業績が上がれば株価も上がり、上がったところで株式を売却すれば大きな利益となります。

そうなると、株価を上げるために、取締役や従業員の業績向上への意欲も高まることとなるのです。

新株予約権(ストックオプション)発行の流れ

新株予約権(ストックオプション)を発行する一般的な流れは以下の通りです(非公開会社で無償発行の場合)。

  1. 株主総会
    →募集事項(誰に、いくらで、どの期間など)の特別決議を取る
  2. 通知
    →新株予約権割当対象者に対して、募集事項の通知を行う
  3. 申し込み
    →新株予約権割当対象者からの申込みを受ける
  4. 取締役会
    →割当者を決定する
  5. 通知
    →新株予約権割当者に対して、割当の通知を行う
  6. 登記申請
    →管轄の法務局で変更登記申請を行う

 

 

自己株式の取得とは?
メリット・デメリットを分かりやすく解説!

自己株式とは、名前の通り「自社が発行した株式」です。

株式会社は設立する際や増資の際に株主から出資金を募り、出資した株主に対して自社の株式を発行します。ですので、通常は会社が自社の株式を保有することはありません。

自己株式の取得とは、会社が発行した株式を発行後に会社自身で取得することを言います。

なぜ自己株式を取得するのか、理由は会社によって様々です。会社の意思によって買い取る場合やその他の要因によって買い取る場合もあります。

例えば、株主が死亡したのでその相続人から株式を買い取る、譲渡制限会社において買受人指定請求により買い取る、合併等により買い取る場合等があります。

取得した自己株式は、そのまま会社が保有してもいいですし、売却しても消却しても構いません。特に期間制限なく会社が保有しておく=金庫に保管しておくことから「金庫株」「自社株」とも呼ばれます。

ただし、自己株式を取得しても株主固有の権利である「議決権を行使すること」ができず、「剰余金の配当も受けること」もできませんので、ただ会社が持っているだけの状態です。

自己株式を取得する場合、株主から直接株式を買い取ることになりますが、無制限に行えるのではなく、配当を行う場合と同様に会社の「剰余金の分配可能額」までしかできません。

簡単に言うと、そもそも会社に買い取り額以上の利益がなければ自己株式を買い取ることはできないということです。

事業承継における自己株式取得のメリット

株式は相続の対象になりますので、オーナーが亡くなった場合、相続人が相続税に苦慮するケースが多くあります。

また、相続により株式が複数の相続人に分散される可能性もあります。

このような事業承継の場面において、会社が相続人から自己株式を買い取ることで、相続人は納税資金を確保できたり、後継者以外の相続人に分散された株式を会社に集約して経営権を集中させることができます。

非上場会社の株式を相続により取得した場合は、会社に譲渡することで税制上の優遇が受けることができるため、相続人にとっては所得税の負担額が軽くなります。

もっとも相続した株式が非課税額の範囲内である場合やそもそも相続税を納めなくてもよい場合などには、この優遇はありません。

もちろん相続時でなくとも事業承継対策として、生前にオーナー以外の株主から自己株式を取得しておくことで、株式をオーナーに集約して経営権を強固なものとし、後継者への株式譲渡もスムーズに行えるというメリットがあります。

非上場会社の株式は流通性がありませんので、単に株式を持っていただけのオーナー以外の株主にとっては、株式を現金化できるというメリットがあります。

なお、会社が自己株式を買い取るためには「時価」による算定が必要です。非上場会社の場合、上場会社と異なって時価が分かりませんので、税理士さんへ時価の算定を行ってもらう必要があります。

もし時価で買い取らなかった場合は、何らかの課税上の問題が生じますので十分気を付けてください。

自己株式取得については、時価の算定方法や税務上の取り扱いなど、一般人には難しい事案が多く発生します。事前に顧問税理士に相談の上、手続きを進めていくようにして下さい。

 

経営承継円滑化法に基づく遺留分に関する民法の特例とは?

事業承継対策として、生前に社長から後継者に対して株式を贈与しておく事はよくあります。

しかしながら、相続人が複数いた場合には相続発生時に起こりうるリスクがあります。

後継者は生前に株式を贈与されていますが、経営者の死後、後継者以外の相続人が受け取るべき財産が「遺留分」を満たす財産でなければ、せっかく後継者が贈与された株式を手放さなければいけない事になりかねません。

「遺留分」とは、相続人である妻や子、両親が最低限相続できる財産のことをいいます。

もし相続人が遺留分以下の財産しか貰えない場合、遺留分減殺請求をされると後継者は贈与された株式を渡すことになる等、株式が分散することになり、事業承継の意味がなくなります。

そこで、一定の要件を満たした場合、生前贈与された株式等を相続財産(遺留分算定基礎財産)から除外することができる制度ができました。

この制度を「遺留分に関する民法の特例」といいます。

遺留分を計算するための基礎財産には、生前に贈与された財産も含まれますので、この基礎財産から贈与された株式等を除外することで円滑な事業承継を行いましょうというのがこの制度です。

遺留分に関する民法の特例を利用するための要件

(1)会社の要件

  • 中小企業であること(小売業であれば資本金5000万円以下、従業員50人以下)
  • 3年以上継続して事業を行っていること
  • 非上場の会社であること

(2)現経営者の要件(贈与する側)

  • 代表者または代表者であった者であること
  • 推定相続人(将来相続人になる人)のうち少なくとも一人に対して株式を贈与したこと

(3)後継者の要件(贈与される側)

  • 代表者の推定相続人であること
  • 代表者から贈与により株式を取得していること
  • 贈与により会社の議決権の過半数を保有していること
  • 推定相続人全員の合意が得られること
  • 合意をした日に、後継者は代表者になっていること

遺留分に関する民法の特例の手続きの流れ

要件を満たす場合、後継者が合意書面を作成して経済産業大臣に対して申請を行い、その確認後、家庭裁判所の審判を受けることで、効力が生じます。

  1. 合意書の作成:推定相続人全員の合意
  2. 経済産業大臣に申請:推定相続人全員の合意を得た日から1ヶ月以内
  3. 家庭裁判所への申立て:経済産業大臣の確認を受けた日から1ヶ月以内
  4. 家庭裁判所の許可

遺留分に関する民法の特例:除外合意と固定合意

遺留分に関して後継者と推定相続人全員で、除外合意と固定合意の双方又はどちらか一方の合意をすることが必要です。

(1)除外合意

経営者から贈与された株式を遺留分の対象から除外することができる制度。

後継者以外の相続人からは後継者が贈与された「株式」の遺留分を請求できなくなることにより、株式の分散を防止することができます。

(2)固定合意

経営者から贈与された株式の価値を予め「相続人が合意した時の評価額」に固定することができる制度。

遺留分の算定時期は相続発生時なので、もし贈与されたときよりも相続時に株価が上がっていた場合、遺留分が増えることになるので、予め評価額を固定することで遺留分の増加を防ぐことができます。