【起業と雇用】正社員・パート・アルバイトの違いとは?

従業員として人を雇う場合、「正社員・パート・アルバイト」などの雇用形態があるのは知っていると思います。

しかしながら、正社員はなんとなく分かっても、パート・アルバイトの区別が分からないという人も多いのではないでしょうか。

ここでは、それぞれの雇用形態の違いについて解説いたします。

(1)正社員

長期雇用を前提とした期間の定めのない雇用契約を結んで雇う従業員で「正規社員」とも呼ばれています。

期間の定めがないということは、基本的には定年まで雇用することが前提で雇っていて、会社の都合だけの理由で辞めさせることはできません。

正社員として雇った場合、会社は社会保険(健康保険・厚生年金保険)、雇用保険に加入させなければなりません。保険料は会社と社員が分割して負担しますので、会社は給与以外にもプラスで経費が必要になることを覚えておきましょう。

労働基準法により、雇用半年後に全労働日の8割以上出勤をしていた場合、10日間の有給休暇を与えなければなりません。その後は勤続期間によって休暇日数が変わります。

1日8時間を超えて労働した場合など、時間外労働をした場合には時間外手当を支払わなければいけませんが、その他の手当は会社の雇用条件によりますので、必ずしも扶養手当や役職手当などを支給する義務はありません。

(2)パート

正社員と比べて労働時間が短く、期間を定めて雇う従業員で「非正規社員」の一つです。

正社員の補助的な役割で勤務する事が多く、短時間ではあるが長期にわたって雇う前提で雇用する事もあり、加入基準を満たせば社会保険(健康保険・厚生年金保険)、雇用保険に加入させなければなりません。

また、週に何日働くかによっては有給休暇も発生します。パートだからといって有給休暇がないという事はありませんので、間違わないようにしてください。

時間外労働をした場合には正社員と同様に時間外手当を支払わなければいけませんが、その他の手当は会社の雇用条件によります。

<社会保険(健康保険・厚生年金保険)の加入基準>

勤務時間・勤務日数が、正社員の4分の3未満で、下記の全てに該当する場合は、社会保険に加入することになります。

  1. 週の所定労働時間が20時間以上
  2. 勤務期間が1年以上見込まれる
  3. 月収が8.8万円(年収106万円)以上である
  4. 学生ではない
  5. 従業員が501名以上である
    (平成29年4月からは、従業員500人以下の会社でも労使で合意すれば社会保険に加入できるようになります。)

<雇用保険>

  • 31日以上引き続き雇用されることが見込まれる
  • 1週間の労働時間が20時間以上である

(3)アルバイト

パートとアルバイトには大きな違いはありません。

働く時間や曜日を自由に選んで働くことから学生やフリーターはアルバイト、毎週同じ曜日や時間帯で働く主婦はパートと勘違いされている人もいますが、これは求人をする会社や求人情報誌が分かりやすくするために設定しているものであって、呼び方が異なるだけで雇用形態に違いはありません。

ですので、社会保険(健康保険・厚生年金保険)や雇用保険も加入基準を満たせば加入させなければなりませんし、有給休暇もパート同様に発生します。

 

 

 

人を雇ったらどんな手続きが必要になる?【起業と雇用】

起業と雇用

起業をして人を雇ったらどのような手続きが必要になるかご存知ですか?雇用後の各種手続きについて当ページで分かりやすく解説していきますので、是非参考にしてください。

従業員として人を雇用した場合、公的な手続きと会社内部の手続きの両方が必要になります。

※そもそも従業員という言葉の定義を曖昧にしか理解していない、正社員・パート・アルバイトの違いを具体的には理解できていいないという方は、まずは下記ページをご覧くださいませ。

(1)社内での手続き

労働者名簿の作成

従業員を雇ったときは、「労働者名簿」を作成しなければなりません。労働者名簿は、全ての労働者(日雇労働者は除く)ごとに作成する必要があります。

労働者名簿に記載するのは、社員の氏名、生年月日、履歴、性別、住所、業務内容、採用年月日、退職年月日及びその事由、死亡の年月日及びその原因の9項目です。

労働条件通知書の作成と交付

従業員を雇ったときは、賃金・労働時間などの労働条件を記載した通知書を書面で交付しなければいけません。

書面に明示しなければならない内容は、契約期間、就業場所、業務内容、労働時間・休日、賃金、退職に関する事項です。もし提示した労働条件が事実と相違している場合は、従業員は労働契約を解除することができますので、きちんと作成するようにしましょう。

扶養控除等申告書の交付

扶養控除申告書は、従業員に配偶者や扶養家族がいる場合に所得税の控除を受けるために必要な書類です。

これを元に所得税の金額が決まりますので、従業員が記入した後は顧問税理士さんへ渡しましょう。

(2)社会保険の手続き

健康保険と厚生年金の加入を手続きを行います。手続きはまとめて年金事務所で行います。

会社が初めて社会保険へ加入する場合には、「健康保険・厚生年金保険新規適用届」を会社の登記簿謄本と合わせて提出します。

その後、従業員が社会保険へ加入する都度、5日以内に手続きが必要です。

提出書類が健康保険と厚生年金がセットになっていますので、同時に手続きが行えます。

なお、提出書類には、被保険者(社会保険に加入する人)の「基礎年金番号」の記入が必要ですので、従業員から基礎年金番号を聞いておきましょう。

(提出書類)

  • 健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届
  • 健康保険被扶養者(異動)届

(3)労働保険の手続き

「労災保険」と「雇用保険」を合わせて「労働保険」といいます。 まず、労災保険の手続き後に雇用保険の手続きを行う流れになります。

①労災保険の手続き

労災保険の手続きは、労働基準監督署で行います。

適用事業報告の提出

正社員に限らず、パートやアルバイトであっても従業員を雇った段階で労働基準法の適用事業場となりますので、「適用事業報告」を提出しなければなりません。

就業規則の作成、提出

10人以上の従業員を雇っている場合、就業規則を作成して、労働基準監督署へ提出しなければなりません(10人未満の場合は作成は任意です)。

就業規則の定型様式はありませんが、モデル就業規則を公開している労働基準監督署もありますので参考にしながら自社の実情に合ったものを作成するようにしましょう。

時間外労働・休日労働に関する協定届の提出(36協定)

従業員に1日8時間、1週40時間を超えて労働させる場合や休日労働をさせる場合には、あらかじめ労使で書面による協定を締結して、「時間外労働・休日労働に関する協定届」を労働基準監督署へ提出しなければなりません。

労働者が1人でも残業や休日出勤させる場合には、届けが必要です。

労災保険の加入手続き

従業員を雇った日の翌日から10日以内に「保険関係成立届」と必要書類を合わせて提出します。手続き後、その年度分の労働保険料を納付することになります。

(提出書類)

  • 保険関係成立届
  • 概算保険料申告書
  • 登記簿謄本(履歴事項全部証明書)

②雇用保険の手続き

雇用保険の手続きは、公共職業安定所(ハローワーク)で行います。

従業員を雇った日の翌日から10日以内に「雇用保険適用事業所設置届」、「雇用保険被保険者資格取得届」と必要書類を合わせて提出します。

手続きの際には労働保険の保険関係成立届の控えと保険料申告書の控えが必要です。

(提出書類)

  • 雇用保険適用事業所設置届
  • 雇用保険被保険者資格取得届
  • 登記簿謄本(履歴事項全部証明書)
  • 労働者名簿
  • 労働関係設立届の控え
  • 労働保険概算保険料申告書の控え

 

株式会社が人を雇った場合に掛かる費用(人件費)にはどんなものがある?

人件費

人を雇った場合に掛かる「人件費」で最初に思い浮かぶのは「給与」だと思います。

給与以外にも会社が負担する様々な人件費が掛かることをご存知ですか?

「うちはボーナスは出さないから掛かるのは給与だけ!」なんて思っていませんか?

いえいえ。それは違います。

株式会社であれば、社会保険や労働保険に加入しなければなりません。これは会社の義務であり、また、従業員の意思とは関係なく強制加入ですので間違わないようにしてください。

「人件費」は給料のざっと1.5~2倍とも言われています。

実際、人を雇う場合にはどれだけの人件費が発生するのか事前にシミュレーションしておきましょう。

人件費にはこれらのものがあります。

  • 給与
  • 賞与
  • 労災保険料
  • 雇用保険料
  • 社会保険料
  • 交通費
  • 福利厚生費
  • 退職金
  • 採用費
  • 教育研修費

それでは、ひとつずつ見ていきましょう。

給与

正社員、パート、アルバイトなど、雇用形態により金額を設定します。

毎月支払う給料以外にも手当として、通勤手当、扶養手当、住居手当、役職手当などを支給するのか、勤務時間外の残業手当が発生する可能性があるかも念頭に置きましょう。

ちなみに月給など勤務時間に対する報酬を「給料」、給料や手当を含めた会社が支払うお金すべてを「給与」といいます。

なお、株式会社の場合は、オーナーでもあり役員でもあるあなたの給料は「役員報酬」になります。これも給料です。この役員報酬については税務上の取扱に注意が必要です。

賞与

いわゆるボーナスです。一般的には夏期手当、年末手当の名目で支払われるもので、賞与を支給するか、時期・金額はどのように設定するのかは自由に決めることができます

賞与を設ける場合は、就業規則に定めておきましょう。

労災保険料

労災保険は、正社員、パート、アルバイトに関係なく従業員を雇った場合、無条件で加入します。

労災保険料は、全額会社負担で雇用保険料と合わせて、原則1年に1回前年度分をまとめて納付します。

「労災保険料= 賃金総額 × 労災保険料率」

平成29年度の労災保険料率は0.35%(小売業)です。

例えば、従業員の賃金総額が300万円の場合であれば「300万円 × 0.35% = 10,500円」が会社が負担する金額です。

雇用保険料

雇用保険は、常用雇用される正社員は無条件加入です。パート、アルバイトは一定の基準を満たした場合のみ加入します。

雇用保険料は、会社と従業員とで分けて負担し、従業員の保険料は会社が毎月の給与から天引きして徴収して、会社の負担分と合わせて納付します。

「雇用保険料 = 毎月の給与総額 × 雇用保険料率」

平成29年度の雇用保険料率は0.9%(会社負担:0.6%、従業員負担分:0.3%)です。

例えば、従業員の給与が20万円だった場合、「20万円 × 0.9% = 1,800円」となり、会社負担分1,080円、従業員負担分720円です。

社会保険料

社会保険は、雇用保険と同様に常用雇用される正社員は無条件加入、パート、アルバイトは一定の基準を満たした場合のみ加入します。

社会保険料は、健康保険料と厚生年金保険料をセットで徴収します。保険料は会社と従業員とで分けて負担し、従業員の保険料は会社が毎月の給与から天引きして徴収して、会社の負担分と合わせて納付します。

「社会保険料= 給与(標準報酬月額) × 保険料率※」

平成29年度の健康保険料率は標準報酬月額の9.91%、厚生年金保険料率は標準報酬月額の18.182%です。

例えば、従業員の給与(標準報酬月額)が20万円だった場合、

  • 健康保険料:20万円 × 9.91% = 19,820円→会社負担分9,910円、従業員負担分9,910円
  • 厚生年金保険料:20万円 × 18.182% = 36,364円→会社負担分18,182円、従業員負担分18,182円

となります。

※健康保険料率は都道府県によって異なります。

※従業員の年齢が40歳以上の場合は、介護保険料が加算されます。

交通費

いわゆる「通勤手当」です。

基本的に通勤するために掛かった交通費は全額支給することが多いですが、上限を設けるのか、月一定額を支給するのか、車や自転車通勤する場合はどう支給するのかを決めます。

尚、車通勤の場合、片道の通勤距離によって非課税となる限度額がありますので、限度額を超えて通勤手当を支給する場合には、超える部分が課税されるので注意してください。

その他

福利厚生費

福利厚生費は給与以外に従業員のために支出する費用です。慶弔見舞金(結婚祝い、出産祝い、慶弔金など)、育児手当、住宅手当、資格手当などがあり、一定の条件の元経費として計上できます。

福利厚生費は必ずしも設ける必要がないため、設けるのであれば社内規程を作成し、金額を決めるようにしましょう。

退職金

退職金制度を導入するかしないかは会社の自由です。

退職金制度は会社にとって大きな負担になるので、現在では退職金制度を導入しない会社も多くあります。退職金制度を設ける場合は、就業規則に定めておきましょう。

採用費

社員など従業員を獲得するために掛かるコストです。

一般的には会社のホームページに募集事項を掲載したり、情報誌や転職サイトに広告を出したり、人材紹介会社に登録して人材を確保します。

ハローワークなら無料で求人公告を掲載できて、申し込み翌日からハローワークのホームページに掲載されますので、積極的に活用してみましょう。

教育研修費

従業員の人材育成にあてる費用です。

即戦力の従業員を雇えることも少ないので、会社規模にもよりますが、資格試験や通信教育を受ける費用、外部のセミナーや教育研修に参加する費用など、ある程度は予算を組む必要があります。

社員教育や研修の内容によっては、助成金や補助金の対象となるものもありますので、該当する助成金等がないか確認するようにしましょう。

まとめ

以上、いかがでしたでしょうか。

人を雇うとこれだけの経費が掛かります。起業時は外注で賄える分は外注に出して、ある程度事業が軌道に乗ってて売上と利益が安定してきたところで、初めて人を雇うようにしたいですね。

「起業と雇用」に関しては、下記ページでも詳しく解説いますので、お時間のある方はこれらのページも参考にしていただければと思います。